真・平和立国
みんなを脱出させるためには、水平直進飛行を続けなければならない。自動操縦装置が故障しているこの機体では、誰かが操縦し続けなければならない。そう、パイロットは操縦桿から手を離すことができない。しかもそれができるのは、武元と大竹の2人のみ、掛ける言葉など見つかる訳がない。
「全員のパラシュート装着状態をチェックしてカーゴドアを開けるんだ。頼んだぞ!」
「でも、それは。。。」
もはや一刻の猶予もないことは分かっている、が、武元を置いてはいけない。
その時、力強く肩を掴まれた大竹が振り返る。
「さあ、行こう。他でもない武元さんだぞ。大丈夫だ。」
機上整備員の芝波だった。分厚い眼鏡の奥の目が促す。
「そうだよ。どこかへ不時着させるから、さっさとアメちゃんと拾いに来てくれよな。」
おどける声に不釣り合いなほど武元の目つきは厳しい。
演技の下手な人だ。姿勢を維持するだけで手いっぱいなのに。
「ほら、早く行けよ。俺を誰だと思ってるんだ。」
「必ず拾いに来ます。」
答えるのが精一杯の大竹は、座席のハーネスを外した。コックピットの窓から見える微妙に傾いた地平線が滲む。