声を裏返さない様に…
「頼みがある」
下校時刻に教室に入って来た竹内は、私の前の山下君の席の横に立ちました。
「雨降ってるから…傘、貸して。」
座ったままの山下君が、隣に立った竹内を見上げます。
「どうやって、登校したんだ?」
「朝は、傘が健在だったんだ!」
「?」
「休み時間に…振り回して遊んでたら 壊れた」
こちらから見える山下君の右目は、半分閉じました。
「で…僕には、どうやって帰れと?」
竹内が、私の顔を見ます。
「須藤の傘に…入れてもらえば?」
上半身を捻って、後ろを見る山下君。
目が合った私は、ちぎれんばかりに、何回も頭を前後に振ります。。。
作品名:声を裏返さない様に… 作家名:紀之介