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交わることのない平行線~堂々巡り③~

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「俺は人間になってしまったのだろうか?」
 と、ふと考えたが、
「だけど、同じ人間が存在するというのも、パラドックスでは許されないことだ」
 と、そこまで考えると、人間になった義之サイボーグは自分の運命に気が付いた。
「つまりはこの時代で生きていくということか?」
 と思って、しばらくひっそりと暮らしていくことを決めた。
 すると、さらにしばらくして、沙織と知り合うことになった。
 沙織は自分のことを知っているようだった。こんな老人を知っているというのだろうか?
 と思っていると、沙織と知り合った時から、今度は一度取ってしまった年齢が、元に戻っていた。三十歳代の自分に戻っていたのだ。
――こんなことってあるんだろうか?
 それが人間になるための、通らなければいけない道なのだと思うと、義之サイボーグは、自分で納得するしかなかった。
 沙織は、人間になったサイボーグを、以前知り合っていた義之本人だと思っている。
 本当にすべてをそう感じているのかは分からないが、沙織の中にいる香澄を、義之サイボーグは感じることができた。
 二人は、当然のように恋に堕ちた。人間になったのだから、恋に堕ちることくらい別に何ら問題はない。
 この時代で暮らしていかなければいけなくなった義之サイボーグは、生活に困ることはなかった。未来から義之本人が、サイボーグが一生困らないだけの財産を送り続けてくれたからだ。
 未来でこの時代の紙幣を作るくらいは何でもないことだ。ただ、それが本当にいいことなのかどうか分からない。
 ただ、この時から歴史に少しずつ歪みが出てきたのは事実で、そのことを義之本人にもサイボーグにも、ましてや沙織にも分かるはずもなかった。
 サイボーグと知り合った頃の沙織には、予知能力は消えていた。厳密にいうと、鳴りを潜めていて、表に出ることはなかったというだけのことだった。
 人間になった義之サイボーグと沙織はその後結婚し、子供ができた。その子供の子孫が義之であることはいうまでもない。

 その子供は、成長して小説家になった。SF小説を得意として、SFモノの中に恋愛を搦めた小説が得意だった。
 その中で、彼は予知能力を持った少女の話を描いた小説があり、内容は未来において、未曾有の大戦争が起こり、その後の歴史で登場したサイボーグが過去にやってくるというものだった。
 そこそこ話題にはなったが、娯楽の域を超えることはなく、SFというよりも、
「SFを舞台にした恋愛小説」
 として、位置づけられていた。
「交わることのない平行線」
 そして、サブタイトルに、
「堂々巡り」
 という言葉がついていた。
「メインタイトルは、恋愛小説としてのイメージで、サブタイトルはSF小説としてのイメージになります」
 と、彼は語った。
 その本当の意味を分かる人などいるわけはなかったが、小説が話題になったのは、その言葉が引き金になったと言って間違いではないだろう。
 そして、ちょうどその言葉が語られたその日、人間になった義之サイボーグがこの世を去ったという事実を知っている人は、誰もいなかった……。

                  (  完  )




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