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交わることのない平行線~堂々巡り③~

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                 第一章 成長

 義之が、香澄の元にサイボーグを送りこんでから、香澄との間に愛が芽生えていたが、サイボーグは、何を思ったのか、ある時、香澄の前から忽然と姿を消した。
 最初は、香澄も彼がいなくなったことで、精神に異常をきたしたような気がしていたのだが、すぐに冷静さを取り戻した。
 ただ、香澄の頭の中には、
「裏切られた」
 という感情が芽生えていた。その理由は、
「やっと信じることができそうな相手が現れたのに、いきなり消えるなんて」
 というものだったのだが、裏切られたという意識が、次第に薄れていくのを感じた時、自分というものが、
――熱しやすく冷めやすい性格だ――
 ということに気が付いた。
 自分に冷静さを保つことができる性格を持ちあわせているなど、今まで知らなかった香澄は、元々、「孤独」を感じたとしても、「寂しさ」を感じるわけではないだけに、「孤独」と、「寂しさ」が、本当は同じ次元で考えるものではないことを、次第に知るようになる。
「孤独」を感じても、「寂しさ」を感じることはないと思っていたことで、
――自分には、「寂しさ」なんて感情はないんだ――
 と誤解していたようだ。しかし、「孤独」と「寂しさ」が同じレベルでの思いだということをどこで知ったというのだろう? 自分が育ってきた環境や、今までの記憶を思い起しても、知り得たであろう過程を思い起すことはできなかった。
 そういう意味では、サイボーグである彼と惹き合ったというのも分からなくはない。心の中にある冷たさのようなものを、彼も自分自身で感じていた。だが、それは自分がサイボーグだという自覚があり、人間のような血が流れているわけではないという思いがあることで、暖かさを感じないことが、一番人間と違うところだと思っていた。
 しかし、香澄はそんな彼を好きになった。なぜ、彼女が彼に惹かれたのか、彼は分からなかった。
 いや、分からなかったというよりも、考えようとは思わなかったのだ。考えることで、自分に対して不利な結果が導き出されてしまうことが怖かった。
――怖い?
 サイボーグに「怖い」などという感覚が存在するなどあるのだろうか?
「自分を犠牲にしてでも、人間を守らなければならない」
 と、基本基準に入っている。「怖い」などという感覚を持ってしまうと、一瞬の判断が遅れて、人間を助けることができなくなる。サイボーグやロボットに、「怖い」などという感覚は、
「百害あって一利なし」
 と言わざるおえないだろう。
 ただ、彼の頭の中には、義之の考えや、心が埋め込まれている。それは紛れもなく人間のものである。
「人間というものはロボットと違って、『恐怖』というものを感じる」
 ということは、義之の心が教えてくれる。しかし、サイボーグである以上、基本基準が埋め込まれているため、人間としての「心」と、サイボーグとしての「基本基準」との間で、
「何が正しいのか?」
 ということを模索している。
 特に彼は、発展途上であり、「学習機能」により、成長するサイボーグだった。そのことを知っているのは義之だけで、サイボーグである彼には最初から意識させないように設計されていたのだ。
 それでも、成長していく間にそのことを悟るであろうことは義之にも分かっていたことで、義之の行動は、
「成長を見守る親の気持ち」
 というよりも、
「人間とサイボーグの違いを実践で感じる」
 という研究面からの方が大きかったに違いない。
 それでも、自分の「心」が入っているサイボーグ、他のロボットたちに比べても、気になる存在で、情が移っていないとは言えないだろう。
 ただ、それでも彼がどうして香澄の前から姿を消したのか、義之本人には分からなかった。その理由が、サイボーグにあるのではなく、人間側に問題があるなど、想像もしていなかったからである。
 香澄が沙織と出会ったのは、その頃だった。色彩をイメージすることで、予知能力を持つことができるという沙織に、香澄は興味を持った。その時香澄は、
――彼女とは、ずっと一緒にいるような気がする――
 と思い、沙織に何か言いたげな様子を浮かべ、
「どうしたんですか?」
 と、沙織に言われてドキッとするが、
「い、いえ、何でもないの」
 と、あからさまに動揺した態度を示した。
――この娘は、私の考えていることなら、すべてお見通しなんだわ――
 と思いこんでしまったことで、気弱になりかかっている自分を何とかしないといけないと思い、必死に自分の優位性を表に出すよう、心掛けていた。
 沙織にある予知能力は、相手が考えていることを、見透かすものではない。香澄は沙織の特殊能力を、相手の気持ちが分かるというところまで広げて解釈してしまったことで、自分の中に結界を作ろうとしてしまっていることに気が付いた。
 香澄は、人に知られることなく、自分の中に結界を作ることができるようになっていた。以前には、そんなことはできるはずなどなかった。できるようになったのは、義之サイボーグに出会ったからで、知らず知らずのうちに、香澄にも人に気付かれないような特殊能力が備わっているのではないかと思われた。
 ただ、香澄は沙織の前に出ると、優位性が香澄にあるということを、沙織が感じているのを分かっていなかった。香澄は先生になって沙織と出会い、自然の中で沙織と一緒に絵を描くことで、未来に飛んでいってしまいそうになっている自分に気付くことなく悩み続ける自分を、引き留めていられた。
「沙織ちゃんと一緒にいる時だけが、今の私を支えているのかも知れないわ」
 そう思うと、どちらに優位性があるかなど、関係ないように思えてきた。
 香澄は、沙織と一緒にいる時の思い出が、一番好きだった。
――もっと長く続いてくれたらよかったのに――
 この意識は、ずっと持っていた。
 思い出の中の時間に対しての意識は、
「長いと思っていても、思ったよりも短い」
 あるいは、
「あっという間だったように感じるのに、結構長かった」
 と、感じ方は様々だが、沙織に関しては、
「長かったと思っていたのに、思い出すには、遠すぎる」
 というイメージが付きまとった。もちろん、こんな思い出は、それまでにはなかったことだった。
――思い出すには、遠すぎる――
 香澄が、絵画に興味を持ったのは、色彩に対して意識が強かったからだが、その時同時に感じたのは、
「遠近感」
 というものの意識だった。
 遠近感を最初に感じたのは、絵を描く時ではなく、自然を見ている時に感じた、何とも言えない懐かしさだった。
 遠くに見える緑の木々が、日の光に照らされて眩しく光っていた。その中には影の部分も含まれていて、暑さの中で、揺れている木々が、木漏れ日を感じさせ、静かにしていると遠くから、川のせせらぎが聞こえてくる。
 目を瞑ると、眩しい緑が瞼の裏に焼き付いているのを感じたが、
「待って」
 目を瞑って瞼の裏に映し出されるものに、「色」を感じたことなど、今までに一度もなかったことのはずだった。
 それなのに、緑という色を感じたというのは、それだけ香澄が色に対して敏感になっているからなのか、それとも、