安全装置~堂々巡り②~
それが恋愛感情であることに気が付くまでに、さほど時間が掛からなかった。
しかし、なぜ女性に恋愛感情などを抱いたのか?
そして、なぜ、彼女なのか?
一体彼女のどこに感じたのか?
いろいろと考えてみた。
なぜ彼女なのかということが、一番簡単な理屈だった。それは、彼女が自分の一番そばにいたからである。そして意識している相手が彼女だったからである。
そもそも恋愛感情というのがどういうものなのかということを、彼にどうして分かったかということである。
それは、彼女の方も、彼に対して、恋愛感情を抱いたからである。
「相思相愛」
ロボットの「辞書」にそんな言葉はなかった。「恋愛感情」という言葉もない。もし、恋愛感情を抱いたとすれば、それは彼の創造主である義之が、彼にだけ違う回路を組み込んだこと、そして、あまりいろいろと知識を埋め込むことなく、成長を促すロボット、つまりは「発展途上」の状態で送り出したことが、その理由と言えるだろう。
そして、一番重要なのは、
――香澄が、他の女性とは違う――
ということだった。
香澄に最初に感じた思い、
「孤独は感じるが、寂しさは感じられない」
という感覚。
どうしても分からなかった。分からなかったから、必死で考える。考えると自分が堂々巡りに入ってしまうことを予見できた。
「さて、どうしたものか?」
このまま考えることをやめるのは簡単なことだった。
いくら、創造主の命令だとはいえ、
「余計なことを考える必要はないんだ。お前は香澄さんに近づいて、俺の先祖に何があったかを客観的に見てきてくれればいいんだ」
という簡単な命令を受けただけではないか。ロボットは、忠実にその言葉に服従していればいい。
――だが――
彼には、それだけでは我慢できないものがあった。
「香澄のことをもっと知りたい」
その思いは、香澄の中にあるのも感じられた。
お互いに見つめ合っているのを感じると、二人が一緒にいる両端に鏡が置かれていて、その姿が、永久的に写っていくのが見えているのを感じた。
それは、彼だけが感じたことではない。その瞬間に、香澄も同じことを考えていたのだ。二人は、その時に結ばれたことを確信した。
「あまりにも早すぎる展開だ」
と、他の人が見るというだろうが、それは人間同士の恋愛の場合である。相手がサイボーグとなると違ってくる。人間同士であれば、分かるところは分かっていても、それでいて駆け引きをしようとする。どうしても、そこに計算ずくという感覚が芽生えてくる。
二人は、その時、自分たちの種族を凌駕したような気分になっていた。
「神をも恐れぬ」
という言葉があるが、まさしくその通りだ。
だが、何しろ、ロボットと人間の初めての恋愛感情である。しかも、そこには、
「時代を超えた」
という言葉がついてくる。
実は、誰にも知られていないことだったが、本当は、香澄の時代と、義之の時代の間に、「ロボットと人間の恋愛」
という事実がなかったわけではない。公にされていないが、それには理由があった。
それは、
「サイボーグが過去に行って、人間と恋愛感情に落ちた」
という事実を、公にされなかったロボットと人間は知っていた。だから、
「自分たちが本当の最初ではない」
と思っていた。だが、それもサイボーグが未来から来たのでなければ、それでもよかったのだが、時代を超えていて、しかも、
「自分たちの時代をまたいでいる」
という意識があることで、頭が混乱してしまった。
「パラドックスに牴触してしまう」
という意識から、その時の二人は、公にはしなかったのだ。
もちろん、香澄とサイボーグとの恋愛も、公にはなっていない。それが公になっていく過程が実は存在するのだが、それは、またの機会のこととなる。
香澄をサイボーグに任せて、未来の義之は、沙織を意識し始めていたのだった……。
( 完 )
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作品名:安全装置~堂々巡り②~ 作家名:森本晃次