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③残念王子と闇のマル(追項有10/8)

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「くくっ…噂…ね。どんな噂か知らないけど、だいたい想像つくわ。」

父上は自国の言葉で小さく呟き吐き捨てるように笑うと、小首を傾げて王様を見下ろした。

『とりあえず、座っていい?』

その言葉に王様はハッとして、慌ててソファーを勧める。

『大変失礼致しました。』

父上はこちらをふり返ると、理巧とカレンに視線を送った。

そのまま優雅に上座の中央に父上は座り、続いて右側にカレン、左側に理巧が腰掛ける。

私がカレンの右側の床に控えると、王様が慌てて王妃に指示を出す。

『椅子をご用意しなさい。』

王妃は私を一瞥し、不承不承といった様子で椅子を持ってきた。

『恐れ入ります。』

私はその椅子をカレンの斜め後ろへ置き直しながら頭を下げるものの、王妃は無視してすぐに王様の隣に腰掛けた。

父上は、姿勢美しく王様と王妃を真っ直ぐに見る。

『じゃ早速…まずはこれ。』

懐から取り出した白い封筒を、父上は理巧に手渡した。

受け取った理巧が、椅子を立って王様の前に跪き差し出す。

王様はそれを受け取ると、微かに指をふるわせながら封を開けた。

そして、素早く内容に目を通して驚愕する。

『そこに書いてある通り、おとぎの国の王がカレンを迎えに既に国を発っている。』

王様は体中を震わせながら、手紙を握りしめた。

『し…親征軍を率いて…?』

王様の言葉に、カレンが驚いて父上を見る。

『このままじゃ、ヤバイのはわかるでしょ?』

父上はカレンを見ずに、まっすぐに王様を見つめ、切れ長の黒水晶の瞳を鋭く細めた。

『おとぎの国の王は、非公式でいいから謝罪があれば引き返すって言ってんだけど。』

その瞬間、王様の表情に怒りが浮かぶ。

『謝罪!?我が妃に無体を働いたのはそちらだろう!』

握りしめていた手紙を引きちぎり、握りつぶす。

『…そ。じゃ、はい、続けてこれ。』

王様の怒りを淡々と受け流し、父上は手紙をもう一通、理巧を通して王様に渡す。

王様はそれに目を通すと、父上を鋭く睨んだ。

『我が女王の手紙では、第1王子の楓月(かづき)もカレンを迎えに国を発ったらしい。』

゙迎えに゙。

(そう、あくまで永世中立国の花の都は、他国から攻撃がない限りは進軍できないので、『お迎え』が名目なんだよね。…でも、世界一を誇る軍を率いている時点で実質の進軍だから…。)

父上は感情の読めない黒水晶の瞳で王様の鋭い視線を受け止め、王様と王妃をそのままつららのように鋭く貫く。

そして放たれた殺気に、娘である私でさえ背筋に冷たいものが伝い、膝が笑った。

次期頭領らしく滅多に動揺をみせない理巧も、その横顔は蒼白でこめかみから一筋の汗が伝い落ちる。

(本気の父上…久しぶりに見た…。)

私の位置からはカレンの表情が見えないけれど、足の上に置かれた拳は固く握られ微かに震えていた。

シンと静まり返る私室の静寂を、父上の艶やかな低い声が破る。

『認めたら?可哀想だよ、王様。』

父上に見つめられた王妃は、頬を紅潮させながらも拒否するように目を伏せた。

『しょうがねーなー。』

大きなため息を吐くと、父上はゲキ達をふり返る。

『おまえ達、なんか知ってる?』

(あ…。)

父上から自然に放たれた合図に、ゲキ達は身体をピクリと反応させ父上と視線を交わした。

『は…。王妃様は、他国の若い王子様がいらっしゃると、必ず今回のようなことになります。』

父上と視線を交わしたまま、ゲキは述べる。

『今回のようなこと?』

父上が追求すると、ゲキの隣の騎士が口を開いた。

『特殊なアロマを使い、理性を保てなくし、誘惑して肉体関係を持つのです。』

続けて、ゲキの後ろの騎士が父上を真っ直ぐに見つめる。

『そして、誘惑しておきながら王妃様は『襲われた』と騒ぎ立て、相手国に賠償金を要求します。』

父上は、更に質問を重ねた。

『へえ。どこかの王子が滞在する毎?』

『はい。年若い王子様であれば確実に。』

毒手裏剣を受けた騎士の隣で跪いている騎士が、はっきりと答える。

父上は黒水晶の瞳を三日月にして、王様へ向き直った。

『だって。』

王妃は険しい表情でゲキ達を睨み、王様は、怒りで顔を真っ赤にして全身を震わせている。

『いくら花の都のご夫君といえ、我が妃を侮辱することは…』

『まぁまぁ、落ち着いて。侮辱なんてしてないから。』

父上は飄々と王様の怒りを受け流すと、懐から小瓶を取り出す。

『これが、その゙特殊なアロマ゙ってやつ。』

言いながら蓋を取り、王様の方へ扇いで香りを流す。

『これは…王妃の香水の香りだが…。』

王様は怪訝な表情で、父上を見た。

それと同時に、カレンが口と鼻を覆う。

『これ、僕の寝室にも、晩餐会の会場にも…。』

父上はカレンをチラリと横目で見ると、小さく頷いた。

『ん。』

そして小瓶の蓋を閉め、理巧を横目で見る。

その無言の指示に、理巧は頷いて応えた。

『これは、地の国でしか採れない花から抽出された、麻薬成分を含む媚薬です。』

理巧の言葉に、王様の眉間に皺が寄る。

『麻薬?』

王様の視線を受けた王妃は、サッと顔を逸らした。

『あの獣も、地の国にのみ生息する希少動物です。』

理巧の言葉に、王様とカレンが死んだ獣と王妃を見る。

『王妃とはどこで?』

父上が、わかっているくせに訊ねた。

『…地の国へ外遊に行った折りに…。』

王様は、戸惑った表情で王妃を見つめる。

『…王妃様は、何のために強力な媚薬を用いて、王様や各国の王子を誑かしているのですか?』

カレンが父上に訊ねると、父上が喉の奥で小さく笑った。

『いわゆる゙スパイ゙…でしょ?』

父上は王妃へ視線を送るけれど、王妃は目を逸らしたまま黙っている。

『ソラ様。それはあまりにも…。』

往生際の悪い王妃と未だ媚薬の影響が抜けない王様に、父上が呆れたように大きなため息をついた。

「はぁ…。この手は使いたくなかったんだけどねぇ…。」

私たちだけに聞こえる小さな声で呟いた後、父上はチラリと理巧をみる。

『喉、乾いた。』

父上の言葉に、理巧がテーブルに乗っている水差しに視線をうつす。

『…あの水を頂いても?』

理巧が王様に訊ねると、王様が王妃に声をかける。

『注いで差し上げなさい。』

けれど王妃は顔を背けたまま、微動だにしない。

ため息を吐いて立ち上がろうとした王様を、理巧が手で制し立ち上がる。

そして音もなくテーブルに歩み寄ると、近くのグラスに水を注いで両手に持って来た。

(あの水は、私が中和薬を仕込んだ…。)

理巧はひとつを父上へ渡すと、もうひとつを王様へ差し出す。

『まぁ、ちょっと一息つこうか。』

父上の言葉に、王様は理巧からグラスを受け取った。

『…じゃ、乾杯。』

父上の言葉を合図に、二人はグラスを高く掲げる。

そして王様の喉がごくりと水を飲み込んだことを確認すると、父上はおもむろに顔のマスクを外し、自らも一口飲んだ。

マスクを外すだけで色術にかけてしまう恐れがあるので、父上は常にこうやって気を付けているのだ。