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③残念王子と闇のマル(追項有10/8)

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絶体絶命


ゲキ達から王妃のことを聞き出した私は、窓を開け放ち指笛を吹いた。

すると数秒後に、十数羽の烏の群れとひとりの忍が窓から入ってくる。

この忍は星一族の中の『烏遣い』を担う伝令専門の忍で、通称その名も『烏』。

能力の低い下忍だけれど、そんな事情をしらないゲキ達には、この烏も私と同レベルの忍にしか見えていないだろう。

私はゲキ達を縛り上げ烏に託すと、烏は無言で頷いた。

実は縛り方も、暗号となっている。

今回はこの縄暗号で、頭領をここへ呼ぶように烏に指示を出した。

烏が赤いリボンを1羽の烏の足に結びつけると、その烏は飛び立つ。

忍の使役動物として訓練された烏は、リボンの色だけでその色の示す指示通りに動いてくれる。

私は烏と視線を交わし、ゲキ達をぐるりと一瞥した。

彼らは一様に、私と目が合うと慌てて俯く。

再び烏と視線を交わすと私はそのまま姿を消し、天井裏を駆け抜けた。

(カレンは…。)

カレンの部屋に行ってみるも、誰もいない。

地下牢も念のため確認したが、いない。

(カレンはどこに…。)

城の中を全て確認したが姿が見当たらないので、最後まで残しておいた王様の私室へ急いだ。

そっと天井裏から部屋を見下ろすと、カレンの金髪が見える。

(いた…。)

カレンの無事な姿を確認できて、私はひとまず胸を撫で下ろした。

(カレン…マスクは?)

捕らえられた時に、外れてしまったのか外されてしまったのか…忍マスクをしていない。

『では、どうあっても認めないということなのだな。』

王様の怒りに満ちた声が聞こえる。

威圧的なその声色にも、カレンは怯まず頷いた。

『認めるも何も、冤罪ですから。』

そして一呼吸置いた後、カレンは王妃を見てニヤリと口の端をあげる。

『今まで通りにはいきませんよ。』

その言葉には、私への信頼が溢れていて、胸がしめつけられた。

『では致し方ない。王子には地下牢に』

『私は構いませんが、冤罪が証明された時、どうなさるおつもりですか?』

カレンが鋭い口調で王様の言葉を遮る。

『国際問題どころでは、すみませんよ。今回の美人局が証明され、冤罪である私が投獄されていたとなれば、我が父も、我が婚約者である姫の母上も、決して赦しはしませんよ。』

『美人局など、それこそ無礼であろう!』

その瞬間、王様は烈火のごとく怒り、椅子から立ち上がった。

『我が妃を愚弄するなど、到底赦すことはできぬ!本来ならばこの場にて手打ちにし、その首をおまえの父に送りつけるところだ!それを妃が示談にしてやると言っておるのに、その妃の情けを踏みにじるとは…』

言いながら、脇にある剣を掴む。

私は瞬時に、手裏剣を構え王様の首を狙った。

するとカレンがチラリとこちらを見て、首を左右にふる。

(カレン…!)

カレンが私に気づいていたことに驚きつつ、おかげで冷静になった私は王様の首でなく剣に向かって手裏剣を放った。

『!!』

突然飛んできた手裏剣と、剣に当たった金属音に驚いた王様が、剣を取り落とす。

カレンは、小さく頷きながら王様と王妃を見比べた。

『先程も申し上げましたが、私の婚約者は花の都の第一王女です。ですので、こうやって私にも常に忍がついていることを、お忘れなく。』

王様は忌々しげにカレンを睨むと、傍に控えていた小姓をふり返る。

『王子の部屋へ連れて行け。ただし、自由に出入りはさせるな。』

王様の指示に従い、小姓は王子を連れて部屋を出た。

扉が閉まると同時に、王様は王妃を荒々しく抱きしめる。

『あの、年若く美しい王子に惑わされたのではないか?』

王妃は妖艶に微笑みながら、王様の頬へ手を添え見上げた。

『若く美しいだけですわ。王様以上に、私を悦ばせてくださる方は他におりません。』

その言葉に王様は満足すると、王妃へ口づける。

王妃は王様の首に腕をまきつけると、自ら口づけを深めた。

私は王妃がしばらく私室へ戻らないことを確信し、王妃の私室へ向かう。

(何か物証を得たい…。)

そっと王妃の私室へ降り立ち、引き出しを探っていた、その時。

低い唸り声と共に背後に凄まじい殺気を感じ、私は瞬時に横っ飛びに飛び退いた。

(!?)

目の端を黒い大きな影が横切る。

「ぐわおぅっ!」

私が先程まで探っていた引き出しの前に、虎のような…見たこともない大きな黒い獣が唸り声をあげ立っていた。

(!)

私は即座に毒手裏剣を連続して放つが、体が大きい割に非常に俊敏な獣に全てかわされてしまう。

(当たらない!?)

今まで的を外したことがない私は、思わず一瞬、動きを止めてしまった。

するとその隙をすかさずとらえた獣は、大きな咆哮を上げると同時に、目にも止まらぬ速さで床を蹴る。

「あっ!」

次の瞬間、左肩に焼けつくような痛みが走った。

横目で確認すると、肩の肉が裂け、血がぼたぼたと滴り床を赤く染めている。

「くっ…。」

咄嗟に両手に構えた忍刀と毒クナイで獣の牙からは逃れられたものの、その鋭い爪で肩を引き裂かれたのだ。

(動きが…速すぎる…。)

しかもその爪には毒が塗られていたのか、どんどん痺れが広がっていく。

私は奥歯に仕込んでいたカプセルを噛み砕き、なんとか毒を中和した。

「がぁぁぁぁっ!!」

けれど毒が完全に中和される前に、息つく間もない凄まじいスピードで獣の攻撃が繰り出される。

「…はっ…」

大量の出血で、体力と力が奪われていっている私はその攻撃をかわすのがやっとで、受け止めることも反撃することもできない。

(このままでは…やられる…。)

そんな私の血の臭いで狂った獣は、口から涎を溢れさせながら床を蹴り、再び私へ飛びかかる。

「ぅああっ!」

床に押し倒された私は、思わず叫び声を上げた。

獣の爪が両肩を貫き、私は床に縫い止められてしまったのだ。

もはや…動くことすらできない。

その爪に塗られた毒が、再び私の体を痺れさせる。

(カプセルひとつでは…中和できない…。)

もう片方の奥歯に仕込んでいたカプセルを噛み砕くものの、もう貫かれている痛みすら感じなくなっていた。

獣は再び咆哮をあげると、大きく口を開き、その鋭い牙をふりおろす。

「っ!!」

「ぅっぐぉぁぁっ!!」

思わず目を瞑った私の耳になぜか獣の断末魔の叫び声が聞こえ、大きなものが倒れる音を最後に、辺りが静まり返った。

「は…ぁ…。」

固く閉じていた瞼を恐る恐る持ち上げた私は、信じられない光景に言葉を失う。

そこには、肩で息をしながら仁王立ちしているカレンがいたのだ。

右手には忍刀が握られ、その刃からは血が滴り落ちている。

「また、助けに来るのが遅れた…。」

その言葉と同時に忍刀は床に落ち、私の体は抱きしめられた。

「ごめん…マル…。」

鼓膜をくすぐる声は、愛しいひとのものだった。

「…え?」

状況が掴めない私の視界に、更に黒装束の姿が飛び込んでくる。

「止血が先。」

艶やかな低いその声は、紛れもなく父上…頭領のものだった。

「痺れ薬?」