③残念王子と闇のマル(追項有10/8)
カレンが泣きそうな顔になる。
私はそんなカレンの両手を握ると、微笑んで姿を消した。
「無理、するなよ!」
カレンの心配そうな声が背中に聞こえ、私は奥歯を噛みしめた。
(こんな時まで、ひとの心配して…。)
私はぐいっと目元を拭うと、城の屋根に素早く上がり、口笛を吹く。
すると数秒後に、梟が一羽翔んできた。
「風(ふう)、おまえがいるってことは、やはりまだ理巧が近くにいるんだな。」
言いながら、その脚に手紙をくくりつける。
するとあっという間に、風は翔び去った。
(理巧がいるなら、助かる。)
私は身を翻して、王様の居室へ向かう。
そっと室内に降り立つと、王様の枕元に置いてある水差しに解毒薬を仕込んだ。
その時、王様の部屋をノックする音が聞こえる。
(カレンは、どうなったかな?)
不安になるけれど、今はとにかく王妃の正体を暴くことが先決だ。
私は急いで厩舎へ向かうと、星とリンちゃんに飼い葉と水を与える。
「夜中に、ごめんね。明日、お世話できないと思うから、先に餌と水、置いていくね。」
そして手早く掃除をすると、手紙で知らせた待ち合わせ場所にひとりで向かった。
作品名:③残念王子と闇のマル(追項有10/8) 作家名:しずか