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藍城 舞美
藍城 舞美
novelistID. 58207
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Sの悲喜劇

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 やがて、ストレッチャーに乗せられたスティーブンが手術室から出てきた。サラは息子に駆け寄り、彼の愛用のリングネックレスをその手のひらに置いた。スティーブンは母の顔を見て、小さな声で
「母さん…」
 と言うと、困り果てたような顔で笑った。彼女も涙ながらにほほ笑みを見せ、深くうなずいた。

(お願い:ここで挿入歌として、GLAYさんの「都忘れ」アコースティックLIVEバージョンをぜひかけてください。 https://www.youtube.com/watchv=hLT468WNvt8)

 その直後、スティーブンは、誰かが左肩に優しく手を置いたように感じた。彼はそこに目を向けたが、誰も居ない。でも、温かくて、懐かしい感触は確かにある……。
 すると今度は、左ほおにキスされたような感じを覚えた。スティーブンは、目に見えなくても「もう1人」居ることを確信し、感激した声で
「来てくれたんだね」
 と言った。それから彼は、自分の左右を見た。言葉なき愛情が、双方向から彼に注がれていた。
 
 彼らの様子を見て、フィルが
「家族がそろった…」
 と小さく言うと、
「やばい。こういうシチュエーションには弱いんだ」
 と言いながら、手で両目を拭った。するとジミーも、
「分かるよ、フィル。自分もさっきからやばいんだ」
 と半分涙声で言った。この手のものを信じないヒューゴでさえ、
「いや、俺らももう『家族』だろ?」
 と言うと、穏やかな目で親子を見つめていた。

         (*^_^*) (*^_^*) (*^_^*) (*^_^*) (*^_^*) (*^_^*) (*^_^*) (*^_^*) (*^_^*)
 
 スティーブンが病室に入ると、サラはわが子にリングネックレスを着けてやろうとしたが、
「いや、自分でできるよ」
 と言われ、彼は自分でそれを身に着けた。そのあとすぐに、くたっと横になった。
 サラは、いくつになってもかわいいわが子の姿を見ていると、後ろから誰かに優しく抱き締められたように感じた。彼女は一瞬驚いたが、自分を抱き締める腕に触れて、これ以上ないくらいに穏やかな顔で、
「ありがとう、一緒に居てくれて」
 と言った。

 個室がしばし静寂に包まれると、サラは、
「おまえと、おまえに関わる全ての人に、神様の恵みがあるように祈ってるよ」
 という声が聞こえた気がした。その数秒後、彼女は振り向いて天井を見上げ、夫を地上に行かせてくださった神に感謝を捧げた。そのときには、スティーブンも母親と同じ方向を見つめていた。
作品名:Sの悲喜劇 作家名:藍城 舞美