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詩集 あなたは私の宝物【紡ぎ詩Ⅵ】

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今度は地面ではなく 玄関前のコンクリートに降ろしてみる
彼は精一杯 手足を動かし前進していた

できることなら何とかしてあげたいものだけれど
私ができるのは恐らくここまでだ
後は彼の生命力と幸運を祈るしかない
そういえば 子供の頃に聞いたことがある
ー脱皮中の蝉の幼虫に少しでも触れると死んでしまう。
確か そのときも同い年の従兄弟と脱皮しかけた蝉を見ていた
従弟が興味を惹かれて幼虫に少しだけ触れた
やはり その幼虫は途中で死んでいるのが後日見つかった

今日 私はどうすれば良かったのか
触れたら脱皮できずに死ぬかもしれないから 
見て見ないふりをする方が良かったのか
だが あのまま放置すれば彼は自力では起き上がれなかっただろう
足を痛めている幼虫が無事に羽化できるだろうかー
蟻たちに群がられようとしている幼い蝉を見て
私は どうしても放ってはおけなかった
それは独りよがりの優しさなのだろうか

彼から伝わってきたのは
小さな生きものが全身で訴えている無言のメッセージだった
ー生きよう 生きたい。
どうか あの幼い蝉が無事に大空に飛び立つことができますように
祈るような気持ちで 後ろ髪を引かれながら側を離れる
少し歩いて振り返った時
蝉の赤ちゃんは 懸命に手足を動かしていた
前へ 前へ 
うだるような夏の午後
彼は小さな生命の灯を精一杯燃やそうとしている

☆「晩夏秋思」

今日もまた一日 無事に過ごせたことを
心から感謝し
明日もまた良き一日でありますようにと
祈りを捧げ
眠りにつく前のひととき
人生に望むものは
日々の平穏と
一本のペンだけで良いと
思うようになったのは いつの歳からだろう

頼りない自分を他の誰かと比べることもなく
唯一無二の自分を慈しむことの大切さに気づいた
そして 今日もまた ささやかな歓びに満ちた一日が終わろうとしている
窓の外を吹きゆく夕風もまた秋の気配を帯び
心静かに過ごす晩夏の夕暮れ
ただ一人 
うつろいゆく季を想う