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遅くない、スタートライン 第3部 第2話 9/18-2更新

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(2)

俺はカフェの2階の美裕の部屋をそっと開けた。石田先生の奥様の美咲さんが美裕に付き添ってくれていた。北村先生はもう帰られたそうだ。だから、石田先生は俺を送っていくと言ったんだ。
「大丈夫よ!嬉し貧血だから、MASATOさんの顔を見たら復活するわ。じゃ、後よろしくね。あ、うちの石田先生は?」
「ありがとうございました。石田先生は…ショーケースの前を陣取っています。美咲さんに決められる前に決めるって」
「んもぉ!拓さん!言ってくれるわね!私もおりる!」と言ってドアを開けて出て行った。

俺は出て行く美咲さんに頭を下げた。

ホントだ…点滴のおかげで美裕の頬は赤みをさしていた。具合の悪い時の貧血の時は、美裕は白い顔をしているからな。美裕の目が開いた…
「大丈夫?」俺は美裕の手を握った。
「うん。お薬の種類が違うのかな…いつもより気分いい」
「あぁ…いつもと違うって言ってた。手持ちの分で美裕がいつも使ってるのはなかったそうや。水分飲む?」
俺はベッドサイドのスポーツドリンクを手に取った。
俺もベッドに入って、美裕に腕枕をした。美裕も俺の胸に顔をつけた。

「現実の世界に戻されないうちにさ、服もメイクもされて記者会見の会場に連れ込まれたんだ。もぉビックリしたどころのレベルじゃないんや。俺の知らん間にドンドンと話が飛んでいちゃってさ」とマサ君が話し出した。話が大きく飛躍する前に、福永さんが社長達と音楽プロデューサーに掛け合いに行ってくれたそうだ。

「波に乗ることも大事なことだけど、MASATOの気持ちを確かめたか?このスケジュールはMASATOの了解を得たものか?って福永兄貴が社長達の逸る気持ちを抑えてくれたんだ。福永兄貴は自分も同じ思いをして、体も心も壊したそうなんだ。自分の事を例に出してMASATO自身に決めさせろと言ったんだ。社長達も音楽プロデューサーもあの福永雅樹にそんな事言われたら聞き入れるしないだろう。また福永兄貴は大ドンの2人の名前を出したから、もう社長達は承諾するしかなかったそうだ。三ちゃんが同席して聞いた話を俺にしてくれたんだ」

「そうだったの…じゃ、これからはMASATO自身が全部決めるって事?」
「何もかもじゃないけどね。俺…この新曲リリースが終わったら、また作家業に戻ろうと思ってたんや。でも今の状況じゃ…」
美裕の手が俺の頬を軽くなで、こう言った。
「戻れないよね…でも、作家業もしたいけど歌手としても活動したくなった?」
「うん。25歳で引退した時はどうしてもやりたいことがあって、歌手への未練はなかったんだ。多少あったとしても、作家になる想いが勝っちゃったんだ。いいんだろうか?俺…あきとも引き取って育てなきゃいけないのに、作家業もあるのに、まだ新人作家の樹美裕も育てなきゃいけないのにさ」
「いいんじゃない。あきとくんはマサ君1人で育てるの?美裕の力は要らないの?新人作家の樹美裕はまだまだ、MASATO先生に教えて頂くこともあるわ。でも新人作家 樹美裕も自分の力で作品を書かなきゃいけないでしょ。今の情報化時代…色んな形で対応できると思うよ。マサ君…いいチャンスだよ!頑張って」美裕は…また自分の手で俺の頭をなでてくれた。

そうだよな!!さっすが美裕だ。俺の心中も読んで、今のアドバイスをしてくれたんだ。俺はベッドを出るころには心が決まっていた。また美裕も自分も起きると言って、コードレスで美咲さんを呼んだ。
「もぉ…大丈夫ね。そっと起きてね!2人で手をつないで、ゆっくり階段を下りてきてね。階段の上下にうちの拓さんと諒君がいるから」
ありがとうございます。さすが気遣いの達人 美咲さんだ!

俺と美裕はゆっくり歩いて、家に帰った。自転車も乗らない方がいいと言われたからさ。ま、歩いても10分程度の距離だから歩けないことはないさ。

「さっきの話の続きやけど、もう俺手配してきたわ。福永兄貴の紹介で旅行会社のツアーコンダクターさんが来てくれて、この前話してたとこ行こう!諒君にもさっき話したら、加奈ちゃんが来週から有給休暇消化で退職日まで休むそうだ。ハネムーン行くなら行ってきてくださいって。その代わり俺らの試作出してもいいっすか?って笑いながら言ってたよ。いいよな?美裕」
「もぉ…私抜きで話して(笑)で、交渉成立でいつから行くんですか?」
「すんません。はい…来週日曜日の夜の最終便で行きましょう。あきとを送ってからな!」
「はいはい。あきとくんにはちゃんと言ったんでしょうね?パパ」
「うん。旅行から帰ってきたら、迎えに行くって言った。それがぁ…もう1件相談があるんだ。美裕!」とマサ君は言った。

私はマサ君が眠ってから、インターネットの画面で調べ物をしていた。あきとくんの幼稚園探しを以前から調べていたが、ここは郊外なので幼稚園が少なかった。いや1校あるけど、小さく距離も離れていた。また駅前の保育園にあきとくんを預けていいものか迷っていた。今日…マサ君が竜生兄貴から聞いた話を思い出していた。お子さんが通っている幼稚舎に欠員が出たそうだ。本来なら途中編入は無理な幼稚舎だが、今回は欠員が数名いて、欠員の理由もご両親のお仕事の都合などで、幼稚舎自体に問題があってでの欠員ではないそうだ。みんなお受験の為にスクールやお稽古ごともして、受験に臨んだから合格したのであって、編入試験はさぞかし難しいだろうと思ったのだが。

マサ君は、竜生兄貴にあきとくんの通っていた幼稚園の名前や普段のお稽古ごとに、あきとくんのバァバでもあるお義母さんが、2歳ぐらいから幼児教育の一環として、スクールレベルの事を教えていたのだ。運動は無理だけど、お絵かきやパズルやなぞなぞに数字や文字などを根気よく教えていた。また…あきとくんはお行儀がいい。躾もちゃんとされていて、4歳にしては言葉もはっきりしゃべるし、理解もしている。親ばかだけど竜生兄貴には正直にあきとくんの事を話したそうだ。竜生兄貴はその場で幼稚舎に電話をしてくれて、まだ受験できるかどうか確かめてくれた。あきとくんのレベルなら充分に受験できると言われたそうだ。早ければ早いほどいいと言われて、マサ君はお義母さんに相談をして了解の返事をもらった。あきとくんを附属幼稚舎に入れたいと言ったマサ君だ。

「すごい附属よね。ここは…幼稚舎・初等科・中等科・高等科・専門短大・大学科・大学院か!一度入ればエスカレーター式だし、お月謝や寄付金制度に…あきとくんの気持ちはどーなんだろう?もう話したのかな?マサ君」
私は画面を見ながら、つぶやいていた。