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俺はキス魔のキッシンジャーですが、何か?【第二章・第一話】

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「ちょ、ちょっと聞いてないぞです。それって明らかに凶木の字。」
衣好花は自分が手にしている剣を振り回しながらの抗議なので説得力はない。
騙流はバットを両手で持ち上げようとして、バランスを崩した。非力な騙流には荷が重い様子。
「あははは。結局、持てないなら宝の持ち腐れだです。やはりモテナイ女だっただです。無遊の字。」
《モテナイだと!まる、たしかに男子にモテたことない。だからダルマの目を黒く塗りつぶせない。まるも乙女。男子の後ろ姿に春を見る。でもそんな言い方はない。他人に直接言われるの、許すまじ。オブラートに包んで捨てるくらいの配慮ほしい。だんまり。》
「捨てたら意味が伝わらないぞです。空終の字。」
《まる、持てるサイズに変更した。モテるレベル、超イケメンから中イケメンに変えた。だんまり。》
騙流はダルマ集合体をいったん解体して、細いバットに変えて、それを両手で抱えて振り回した。スイングスピードは初めてバットを持った小学生男子のように極めて緩く、騙流の足元はこんにゃくの上を歩くようだった。
「コワい。こんなすごいパワーの攻撃は初めてだです。強愕の字。」
騙流の盆踊りモドキを攻撃と感じてしまう衣好花。防御力もショボくて残念スキル発動。怯んだ衣好花を見て、生徒に補習を強いるのが生きがいの中年教師のように、一気呵成でバットに『振られる』騙流。
《まる重戦車、進撃の拒人ソウルチャージ!だんまり。》
騙流は気持ちが高揚し声帯を鳴らした。結果、ダルマは非結合体となるのが必然。バットは消滅した。
「奢る平家は久しからずで、騙流の栄華は冬に捨てられる素麺めんつゆと化したです。今度はあたいのターンだです。惨倒の字。」
普通の戦闘に攻守交代はないが、ふたりの低レベルバトルでは、攻守を同時に行う能力がないのが無情。言葉に力を込めた衣好花は殺戮モードなのか、からだをブルブルと震わせて剣を持ち直した。
「あたいの真の攻撃は刃物で斬りつけることだったです。迂闊だったです。これはただの剣ではないんだです。それも鏡の乱反射付きがオリジナルだです。悶眩の字。」
ミラーボールのように街灯の光が舞う。
《目、開けられない。こんな苛烈な攻撃、知らない。初体験、こんな感じ?だんまり。》
「どさくさに紛れて恥ずかしいことを言うんじゃないぞです。素人殺すに刃物はいらぬ、ハゲがひとりいればいい。心に闇のある人間には光が効果的だです。光能の字。」
《ぐぐぐ。苦しい。目がやられるとアタマも悪くなった。だんまり。》
これは頭痛という意味である。
さらに衣好花は攻撃を連続しながら自信たっぷりに吊り上げた口を開く。
「危ないからではなく、魔法伝家だから、物理的攻撃に頼らないぞです。家法の字。」
《いいこと言う。まる、感じいった。だんまり。》
「わかってくれて嬉しいぞです。敵に魔法を理解してもらう。魔法使い冥利に尽きるです。光から闇に戻すです。落陽の字。」
衣好花はゆっくりと剣を下ろした。騙流も光から解放された。
《会話通じた。やっぱり仲間だった。握手しよう。だんまり。》
「うん、それが友情だです。活仲の字。」
《まる、こんな気持ち初めてかも。心がすごく軽くなった。だんまり。》
「あたいこそ、ありがとう!謝呈の字。」
《戦いの後で晴れ晴れする。だんまり。》
「こちらへ来るといいぞです。朋作の字。」
騙流をジャングルジムに案内手招きする衣好花。一緒にジャングルジムに入ると、自分はすぐに外に出た。
《どうしたんだ。ここで時間をともに過ごすのかと思ったが、だんまり。》
「ははは。やっぱり甘納豆だです。そんなにあっさりと他人を信用してはダメだです。これまでもギミックとダルマはうまくいかなかったことをよく考えるべきだです。その中では縦横の棒が邪魔をしてダルマ連結ができないはずだです。もはやダルマ会話もできないぜです。これがあたいのショボい作戦。軽く心をへし折り、ショボく致命傷を与える作戦なんだです。これぞ甘い友情活用。偽理の字。」
《騙された。軽率だった。軽率で済むなら警察はいらなかった。だんまり。》
オヤジギャグを混ぜながら怒る騙流だがもう遅い。ジャングルジムに振動を与えてショックを与えるというショボい攻撃。心身ともに無防備な騙流には効果あった。騙流は腰を落としてお尻は土まみれになっている。落ち武者オーラが騙流を覆い尽くしている。
「わははは。これでくだらない友情ごっこはゲームオーバーだです。己れの浅はかさを呪えば、冥土でひまつぶしくらいできるかもです。終闘の字。」
 腰に手を当ててVサイン、勝利宣言の衣好花。周囲にクラッカーの嵐。自分で用意していたらしい。その場で『バンジー、バンジー!』と連呼しながらただの垂直飛びを繰り返している衣好花。飛んだ高さは30センチに満たない。体育の成績はレベル1と推測される。
『ポツリ、ポツリ。』
冷たい雨が女の子座りの騙流の頬を撫でる。
雨はすぐに本降りとなり、超低空の跳躍をリフレインしていた衣好花の足元が滑り、ジャングルジムの中まで入ってしまい、そこに大きな窪みができた。そこから這いずり出た衣好花。
「少し図に乗り過ぎたです。でもかすり傷もなくて良かったです。運珍の字。」
衣好花はすでに緩んでいた顔の筋肉をさらに弛緩させた。もはや顔には起伏のない箇所は見当たらないほど、だらしない状態となった。
《攻めだるま!だんまりなし!》
 騙流は衣好花の作った大きな窪みを利用して、ジャングルジムから脱出し、即座にダルマを集結させて巨大なものにしていた。衣好花は大きなダルマの下敷きになりゲームオーバー。
「ま、負けたです。このあたいが騙流に?完璧な作戦だったのにです。信貧の字。」
《平家はまるに勝利を奢ってくれた。これで地獄へ行ける。・・・地獄へ行くって、死ぬって意味じゃないか。だ、だ、だ、だんまりするしかない。》
 勝利宣言から一転して青ざめた表情の騙流であった。

場面は戻って大悟。倒れた桃羅を優しい目で見下ろしている。
「桃羅。起き上がるとからだにさわるから、そのままで聞いてくれ。地獄の入口がどこにあるか知っているか。」
「この期に及んで、こんないたいけな肢体を晒しているモモにそれを聞く!?お兄ちゃん、意外にドSなんだね。モモは知らないよ。てか、知ってても地獄行きなんて危険なだけだから、教えないよ。やっぱり知らないよ。いたたた。」
「ほら、からだを動かそうとするからだよ。桃羅。知ってるんだな。それなら、パンチラ見てやるから教えろ。」
「ホント!?ならすぐにでもスカートを。って、やっぱり痛くて動けないよ。ゴメンね、お兄ちゃん。一世一代のパンチラを見せてうれし泣きしてもらおうと思ったんだけど、ちょっと無理だね。お兄ちゃん、チャンス喪失で悔しくて甲子園の土を堀まくってカラにしないでね。」
「強がり言ってるんじゃねえ。相手が楡浬なら、拷問してでも教えてもらうんだけどなあ。」
「誰を拷問するって?トコトン変態ドSだわ。」
「楡浬!外を出歩くのはからだによくないぞ。お前は腐った腐女子なんだからな。」
 そこに現われた楡浬。赤いカーディガンにミニスカートというコーデだが、いつもとは様子が違う。
「二重尊敬語は慇懃無礼なのよ。」