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昔飼っていた猫

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 それから10年も経ったある日。ふとチョビのことを思い出した。あの時の極悪非道な自分を、軽蔑した。
 しかし、よく考えてみた。

 私は幼いころ、よく体罰を受け、叱られる際に怒鳴り散らされ、大きな恐怖を感じていた。しかし年齢が上がるとともに身体的に強くなり、暴力でし返すことや、怒鳴り返すこともたまにできた。だが精神的には全く強くなっておらず、今でも、その成長を感じられない。

 それがきっかけだった。昔の自分が受けてきた体罰や怒鳴りを思い出したのが。

 私はそのとき非常につらかった。ただならぬ恐怖、大きな痛み、そして年齢が上がると、それに加えて、猛烈な怒り、反逆心、憎悪の念、挙句の果てには、対象に対する殺意。

 そこで気づいた。私は、あのとき、それをチョビに与えていたのだと。絶対与えたくないと思っているそれらを全部与え、なおかつ癌による痛み、それによる環境の制限も付加されていた。

 なんてことをしたんだ。

 私は泣いた。泣き叫んだ。場所はトイレだったがどうでもよかった。大いに後悔した。謝罪した。もういなくなって10年も経つのに、今更。しかし、謝罪せずにはいられなかった。
 こうして書いている今も、謝罪の気持ちが込み上げる。なぜ、どうしてあのとき気づかなかった。なぜ、尾を踏む者から守り通さなかった。なぜ、いままで可愛がって、大好きでしかたなかったチョビを、あんな残酷な世界に追い込んだ。もう、いくら望んでも帰って来ないではないか。

 遅すぎた。
作品名:昔飼っていた猫 作家名:島尾