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昔飼っていた猫

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 それからというもの、蹴ることはなかった。やはり身体を痛ませる行為はすべきではないと感じたからだ。
 しかし私のチョビに対する見方は、以前とは正反対であった。汚いもの、嫌な存在、近づいてほしくない、なんでまだ居るんだ、

 さっさと死ねばいいのに。

 かつて涙を流した私は、恐ろしく邪悪な愚人に変貌していた。あのときの涙は幻だった。



 チョビは、最期までよく生き延びた。18歳くらいだったか、大往生である。最期は、風呂場で静かに息を引き取った。その直前、私は特に悲しむこともなく、夏季オリンピックの中継を観ていた。ときおり、まだ生きているか確認しにいったが、そのときの自分は、なおも愚人のままだった。
作品名:昔飼っていた猫 作家名:島尾