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過ぎゆく日々

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WBC狂騒曲 優 勝


 準々決勝 対イタリア戦――
 先発大谷投手の気迫に満ちた投球からスタートした。日本で投げる最後になるかもしれないマウンド。負けたら終わりの絶対に負けられない試合。そんな緊張感がひしひしと伝わってきた。
 7回からは4番手としてダルビッシュ投手も救援。その他の投手も各自役目を立派に果たした。中でも、大谷投手がランナーを残してのマウンドに立った伊藤投手の貢献は大きかったように思う。
 攻撃陣も好調さを発揮し、アメリカでの試合に期待を持たせた。心配なのは指の骨折を押して出場している源田選手。守りの要として欠かせない存在であるだけに、痛いだろうががんばってほしいと思ってしまう。
 そして、もう一つ心配なのは選手たちの体調面。もともと強行軍のスケジュールの上に時差というハンデ。強靱なスポーツ選手たちとはいえ、かなり過酷だろう。
 
 準決勝 対メキシコ戦――
 球史に残る試合だった。3点先取され、劣勢の状態が続いた。日本は度々訪れたチャンスにもあと1本が出ないまま、回は進んでいった。
 そして迎えた7回裏、起死回生の吉田選手のスリーランホームラン。喜びに沸く日本チーム。ところが、すぐに2点を取られ引き離された。イヤなムードが漂い始める中、8回裏に1点を取り返し、あきらめない姿勢を示した。
 それが功を奏し、1点差の9回裏、先頭の大谷選手が2塁打を放った。ヘルメットを飛ばしての気迫のベースランニング、そして、2塁ベース上でのベンチに向けてチームを鼓舞する叫び。それに応えるかのように吉田選手がフォアボールを選び、今大会不調に苦しむ村上選手が値千金のサヨナラタイムリー。ベンチからは選手たちが飛び出し、狂喜乱舞の喜びよう。きっと、日本国内でも同じ光景があちこちで繰り広げられただろう。
 
 決勝 対アメリカ戦――
 準決勝にもましてドラマティックなゲームだった。
 最強打線のアメリカと投手戦の展開。僅差でリードを保ちつつも一人一人がホームランバッターのアメリカに対し、若き日本投手陣の緊迫の投球が続く。
 何とか終盤までリードを保ち、8回にはダルビッシュ投手、9回は大谷投手という豪華リレーが実現。DH選手がクローザーを務めるというあり得ない状況。まさに大谷投手でこその特異な場面。それも1点差で迎えた最後のバッターは、エンゼルスの朋友でアメリカ屈指のバッター、トラウト選手。こんな出来過ぎた筋書き、誰が想像しただろう。
 こうして訪れた、これから長く語り継がれるであろう世紀の1打席。みんなが固唾を飲んで見守る中、繰り広げられた両雄ふたりの一騎打ち。勝負はフルカウントまで持ち込まれ、トラウト選手の空振り三振でゲームセット。その瞬間、大谷選手は帽子とグラブを放り投げ、全身で喜びを爆発させた。そして、ベンチから飛び出してきたチームメートたちと歓喜乱舞の光景は、野球少年のようだった。
 
 今大会は、大谷の大谷による大谷のための大会などと言われ、MVPを獲得してその存在感を十二分に見せつけた。でもそれだけではない。たくさんのドラマに彩られた大会でもあった。
 選手を信じ通した栗山監督。チーム愛に徹したダルビッシュ投手、日本愛に満ちたヌードバー選手、骨折を押して出場した源田選手、不調に苦しみながら打席に立ち続け最後に大きな役目を果たした村上選手。メジャー移籍1年目の大切な時期に侍入りを引き受け、村上選手をカバーする活躍でベストナインに選ばれた吉田選手。また、名だたるメジャーリーガーたちに臆することなく立ち向かった若手日本投手陣、そして様々な投手をリードし、陰で支えた捕手陣の貢献も大きい。
 
 日本中を歓喜の渦に巻き込み、幕を閉じた今回のWBC。
 準決勝では“諦めないこと”、決勝では“怖れないこと”の大切さを示してくれた。そして、桁外れの年俸のドリームチームアメリカに勝利しての世界一という侍魂の爽快感、スポーツマンシップ溢れるチェコチームとのリスペクトの交流など話題も盛りだくさん。
 野球を通していろいろなことを教えてくれた素晴らしい大会となった。


               2023.3.24

作品名:過ぎゆく日々 作家名:鏡湖