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過ぎゆく日々

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距離感


 人と人とのちょうどいい距離感―― これが意外とむずかしい。
 
 友人や知人とは、その親しさによって自然と距離が決まっていく。
 頻繁にお茶を飲む仲もあれば、年賀状だけという間柄もある。
 ご近所さんとは、笑顔の挨拶が必須だが深入りはしない。
 親戚とは、冠婚葬祭の時に日頃の無沙汰を穴埋めする。
 
 そして、案外厄介なのが家族だ。
 子どもの時は、兄弟げんかあり、親子のぶつかり合いあり、ストレートにものを言い合える。それでいて、そのほとんどがその場限りで後を引かない。
 ところが、子どもが親離れをする頃からしだいに距離感が生まれてくる。互いを一人の人間として見始めるからかもしれない。
 やがて子どもが一人前になったり、家庭を持ったりすると、親子といえども干渉はご法度であり、一定の距離が存在するようになる。子どもの頃のように密着した日々が懐かしく思い出されてくる。
 
 そして、最も変化を遂げるのが夫婦の距離かもしれない。
 恋愛時代は互いの気持ちを探り合うが、結婚に向けその距離はほぼ0に近づく。
 しかし、結婚生活が長く続いたり、あるいは子どもができると父と母という立場が優先され、夫婦としての空白期間に突入する。
 時が流れ、子どもたちが独立すると、長年安住していた家族という枠から夫婦として放り出され、戸惑いを覚える。
 誰よりも長くともに暮らした仲、言葉にしなくても何でもわかりあっているという安心感がとんでもない誤解だと気づく。新婚時代とは違い、若さに任せた愛情などもはや存在しない。
 互いを尊重し、相手に多くを望んだり押し付けることなく、適度な距離を保ち、そして生涯いたわりあう。そんな関係に変わっていたのだ。
 
 親しき仲にも礼儀あり―― どんな人間関係においても、それを心地よいものにするには、適度な距離感が必要なのだろう。

作品名:過ぎゆく日々 作家名:鏡湖