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過ぎゆく日々

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魔法


 ランプをこすると魔神が現れ、
『ひとつだけ願いを叶えてやろう』
と言われたら、私は
『何度でも願いが叶いますように』
と答えよう、そう子どもの頃に思っていた。
 
 大きくなってからも、ごろんと横になったまま鼻をぴくぴくさせるだけで、掃除や片付けができる――そんなことができたらどんなにいいだろう! と考えた。あの「奥様は魔女」のサマンサのように。
 
 でも今ならわかる、もしそんなことができたら、究極の怠け者になるだけだ。そして、やがて筋肉は衰え、ものごとを成し遂げる達成感というものも知ることはできなくなる。
 
 今欲しいのは、魔法の言葉と魔法の薬だ。
 どんなに落ち込んでいてもその言葉をかけられると途端に元気になる。
 そして、どんな病でもその薬さえあれば、たちまち治ってしまう。
 ああ、絶対に欲しい!
 でも、絶対に手に入らない……
 
 はたしてそうだろうか?
 万能薬はさておき、魔法の言葉は、時にどこからか聞こえてくるような気がする。
 身近にいる家族や友人たち、あるいは遠い先人たちが遺した書物など、こちらが聞き逃し見逃しているだけで、私たちを元気にしてくれる言葉はあちらこちらにあふれているのではないだろうか。
 それに気がつきさえすれば、疲れ切った心と体はじわじわと癒されていくことだろう。そして、それこそが病の苦痛をやわらげる魔法の薬となるかもしれない。


作品名:過ぎゆく日々 作家名:鏡湖