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過ぎゆく日々

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故郷は遠きにありて


 故郷は遠きにありて思うもの――
 
 故郷というものはいいものなのだろう。正月と盆に繰り返される民族大移動をみる度そう思う。
 なぜ、そう思うか――それは私が今のこの地で生まれ育ったからだ。いわばずっと故郷で暮らしているようなもの。だからその有難みがわからない。
 でも子どもの頃、親の実家がある田舎に連れて行ってもらった記憶がある。みんなで雑魚寝したり、家の近くの川で泳いだり、二階には蚕が飼われていたりして、貴重な体験をさせてもらった。
 でもそこは、あくまでも親の故郷であり私に懐かしさを感じることはできない。
 かといって今この場所が当時と同じかというと、それは違う。場所は同じでも多くのものが変わってしまった。
まず家が違う。平屋の古い家はもうないし、近所の家もほとんどが建て替えられた。道路はすべて舗装され、土など公園で見るくらいだ。そして人も多く入れ替わっている。
 もしも、あの家が、あの頃の町が残っているならば、渋滞を押しても行くだろう。
そう、私にも故郷はあったのだ。
でも今、それらは私の記憶の中にしか存在しない。
 
 故郷は記憶の中にて思うもの――


作品名:過ぎゆく日々 作家名:鏡湖