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過ぎゆく日々

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便利と不便


 まったく便利な世の中になったものだ、とシニア世代は口をそろえて言うだろう。
 しかし、ふだんはその恩恵にどっぷりと使ってしまい、不便だったことなど、誰もが忘れてしまっているにちがいない。
 
 まずは電話。黒電話時代など今やはるか遠い昔。公衆電話の上に十円玉を積んでかけたこと、テレフォンカードの登場で便利になったと喜んだことなど、もう立派な昔話である。
 連絡を取るのが大変だった頃は、きちんと約束をした。待ち合わせ場所、時間を間違えたら会うことはできなくなってしまう。でも、今はスマホがあるから、そんな心配はない。
 その反面、人間関係が濃密になり過ぎ、疲れてしまうことはないだろうか。返信が来ないのが気になったり、常にスマホのチェックを強いられたりなど。
 何事にも一長一短があって、そうすべて都合よくはいかないものなのだろう。
 
 また、医学の驚くべき進歩によっても多くの恩恵を被っている。寿命は延び、以前なら寝たきりになるような病が回復したり、昔は不治の病だったガンまでもが完治するようになった。
 でも、健康寿命にはやはり限りがあるように思う。それ以降は投薬や手術など、現代医学によって、ありとあらゆる治療法が用意されている。しかし時にそれは、辛い生との戦いとなる場合もある。
 年老いて重い病に侵されても一日でも長く生きる――それが本当にいいことなのか? 自身の命、自然に逆らってまでの延命は望まず、緩和医療に委ねたい、そう思うかたわら、実際にその時が来たら、生への執着が湧いてこないとも言えない。
 
 便利で平和な世の中にいると、贅沢な悩みが生まれるものなのかもしれない。

作品名:過ぎゆく日々 作家名:鏡湖