初秋の朝と夜
「だれもみな、黒っておかしいね」
「黒は考えなくても済むので」
「そうではなくて、夏でも、だれかも黒だから、変だね」
「それでも、勝負色なんですよ」
「ええ、勝負って」
「またいやらしいこと、考えてるんでしょ」
「あ、は、は」
男は作り笑いをする。
「黒は好きではない、」
と男はしつこく繰り返す。
「下着が黒なのはどうですか」
と女が尋ねると、
「下着は、何色」
男はたたみかける。
そうくるか、と女は思いつつ
「黒なんです」
「見せてほしい」
「わかりました」
下着姿の女を眺めながら
「黒い下着は娼婦みたいだけど、君の下着はいい、エレガントに見える」
「娼婦もお好きなんでしょ」
「すごいことを言うね」
女は男の扱いに手慣れている態度を示して男を牽制した。
「お風呂、見てきていいですか」
「どうぞ、私は先に入ったから、ごゆっくりつかってください」
女は大きな声を上げた。
「このお風呂、大きな窓があるんですね」
「北東の角部屋だよ、そこからも北山とか比叡山が見えると思うけど」
周りの建物はホテルより低くて、大きな窓ものぞかれる心配はない。
女が脱ぎ始めると、男がやってきた。予期してはいたが、状況設定に苦心し
「お風呂、ありがとう」
男が湯船を満たしてくれていたのに感謝する言葉をかけて、男に身構えた。
男は、下着姿の女を後ろから抱きしめ
「いいにおい」
と言いながら、顔を女のうなじに近づけた。女は男の次の動きをいろいろ想像したが、男は意外なことにいきなり、手をのばしてパンティに潜り込ませてきた。素肌をまさぐっている。一瞬、ここで交わるのかと思った。
男は指が何の抵抗もなく滑るように進んでいくのに驚いた。毛がない、しかし、男はその理由を尋ねはしなかったし、女も黙って男の指の動きにゆだねた。指はさらに降りていき、その滑らかな皮膚感覚を楽しんだかと思うと、花唇をまさぐった。やさしい所作だったが、紳士ぶりからは豹変した。
「濡れているね、いつから」
「濡れてますか、出かける準備をしている頃からです」
男はたしかめるように指を穴の中に進めた。
「やわらかい」
「あとからね、あとからね」
女は繰り返した。男はあっさりと中断し、これも意外なことに鉾を収めた。
「あの入浴剤、いいですよ」
と女にすすめて、男は体を離した。自制心のある男性だと思った。
バスルームは広くて、初秋の陽光が注いでいる。傾きかけた太陽は穏やかでやさしい。
「朝風呂の気分なや」
女はふと、いつもの言葉遣いが出てきて、笑ってしまった。
風呂からバスタオルを巻いて出てくると、
「天ぷらを予約しましたが、」
「大好きです」
「鉄板もどうかと思ったのですが、あなたとゆっくりお話しいしたいので」
「それはどうも」
男の手配に同意した。
女は窓側の明るいベッドの方に腰かけると、男は待ちかねたように寄ってきて、女の足を開かせて、花唇を舐めた。
「ああ」
女が軽くため息を上げたから、受け入れ体勢だとみて、男は体を重ねてきた。
「だめです、スキンしてください」
女が男の性急な行動にあがらうと、
「入り口だけでよいから」
と言い訳した。
「ダメです、ゼッタイ、ダメ」
女ははっきりと拒絶した。さてどうしようかと男は考える。女の抵抗は強固だからここは後退しよう、そこで女の手を誘導し、男根を握らせながら、
「クリトリスにあててみて」
と女を誘った。男根をこすりつけながら、女は目をつむってその感覚を味わっている。
「この先と、友達だと思いませんか」
男は肉の質が似ていると解説した。
「あふれてきてる」
「そうですか」
男は体勢をかえて、花芯を舐める。
「ぽかっと、穴があいてる」
男はなじるように、言葉を投げかけた。そして、さきほどの異変を尋ねた。
「毛、剃ってるの」
「ええ、脱毛してるんです」
「脱毛ね」
「エステで時間をかけて、自分でも抜いたり、電気をあてたりして、1本、1本」
花芯とその周囲を舐める。
「ああ、ああ」
ため息をつく。
「舌が滑る、きもちいい」
「うう、う~ん」
ため息がうめきに変わる。女の官能が広がっていく。
男が花唇に軽くあてる。女は息をつめて、何かに集中している。男根の先が花唇とその周囲をすべる。男は、この感覚はよいと思った。
男は男根を水平にして入口に近づけた。入り口での攻防を楽しみながら、女の抵抗を少なくしようとしたのだった。恐る恐るの気持ちが、すっと入ってしまったから状況は一変した。
水平からの挿入には最初、女はものたりない、頼りないと思ったが、それはまったくの油断だった、抵抗なくすっと入ってしまったのだ。大変だ、抗うべきところなのに、こんなにあっさりと受け入れてしまっては、プロかと誤解されてしまう。
男が下半身を落としたことと、女がもう濡れていたことに加えて、男根が小さからず大きからず、ころあいだったから、なじみの男性の一物のように、女は受け入れてしまったのだった。女の体は異物を歓迎している。歓迎されていると男も思う。
いつもそうだが、入ってくると愛らしく思えた。この男のものは収まる感覚がよい、ゆとりがあって、互いに動きやすい。
女はゆるいと思われないかと不安が生じたものの、男根の動きに合わせて下半身が動き出し始めて、もう流れにゆだねることにした。深いところから快感が生じ、一挙に不安は解消された。いつもの押し込んでくるような感じがない、ゆっくりと動く男根の根元に花弁が絡んでいくのが分かる。女には、この緩慢な、しかし同調しあう動きは、はじめての感覚だった。
もどかしい、思わず乳首をつまむ、こする。両足が宙に舞う。舞いながら下半身の動きに弾みをつける。足を振れば、腰が揺すられる。
先ほどはあんなに言葉で抵抗したのに、男は、女がプロかとさえ思った。そうではないはずだ。
「そんなにいいのか」
女はもう集中していて、返事をしない。邪魔をするなと言わんばかりだ。
ここのホテルのベッドはエアーウイーブ、たしかに、二人の体の動きを受け止めるような穏やかさがある。ベッドと男と女と、三者の協奏曲が奏でられている。
「あたってます」
「どこが」
「壁」
「感じてる」
「感じてます」
女の腰が男の体を乗せて動きだす。腰の動きが激しくなると、男も体をゆさぶって呼応する。もう止められない、止まらない。
(やばい、1年半ぶりなのだ、男にどう思われるだろう、)
女はしまったと思った。
生はダメだと、言ったのにと後悔する。
「腰、つかってるのか」
「そうですか、わかりません」
女はとぼける。
男は奥まで、押し込むと、肌をあわせてきた。
「すべすべしてる」
女は全身の快感を表現する。
「あああ、ああ」
男根が勢いを増し、女の腰の動きも大きくなる。
「すごい」
ほめる。
いきそうになる。抜く。抜いて一休みしないと発射してしまう。
男は手を広げて、おめこをなでる。女の官能をなだめようとした。
「いきそう、いきます」
女が絶頂に届いたようすなのをたしかめると、
「一休みしようか」
「シャワー、浴びてきます」
先ほどの大きなバックに、女は着替えを準備していた。夕食に出かける前に、女は、ロイヤルブルーのワンピース、クルーズラインの模様に装った。