池の中の狂気
最終章:狂気の報酬
女の体は小刻みに震えていた。片手には拳銃を握ったまま、勝手口から表に出て、月明かりに照らされた裏庭から車庫に向かった。
地面に足跡を残さないように、石畳の上を走っていた。しかしその途中、彼女は躓いて転んでしまった。とっさに手を着いたが、手に持っていた拳銃は前に放り投げてしまった。
「あっ!」
拳銃は石畳を跳ねて、前方にあった大きな池にポチャンと落ちた。
「しまった。」
彼女は池を覗き込んだが、この池は深いようで、空に浮かぶ満月の明かりでもよく見えない。その拳銃は彼女がこの屋敷から持ち出して、海に捨てる計画だった。
「懐中電灯が要る。仕方がない。後で探そう。」
そのまま、彼女は車庫に向かった。
車庫に入ると、ピックアップトラックの荷台に赤い工具箱が置いてあるのがすぐに分かった。フタを開けて中を見たが、鍵など入っていなかった。
「また? もうあの旦那、いい加減なことばかり言いやがって。」
イラついた彼女は、工具箱をひっくり返して鍵を探したかったが、できるだけ証拠を残さずに屋敷を去りたかったので、現場は荒らしたくなかった。
他にも工具箱がないか探したが、周囲にそれらしきものは見当たらない。仕方なく、電話口に戻ることにした。
「クソッ! うまく行かない。もう殺してしまったのに!」
電話口に戻ると彼女は、
「鍵なんか入っていなかったわ!」
「そんなはずはない。ちゃんと見たのか?」
「ええ、あんた私を騙してるんじゃないでしょうね! 」
「そんなことはしない。お前がうまく逃げられなければ、私の身も危ういんだ。」
「じゃどうして、鍵がないのよ!」
「赤い工具箱だぞ。」
「そうよ。中をよく探したわよ。」
「妻は工具を触ったりしない。絶対に中にあるはずだ。」
「さっきからあんた、いい加減すぎるのよ。言ってること間違いばっかりじゃない!」
「何が間違いだって言うんだ。」
「拳銃の場所だって、寝室の場所もみんなデタラメだったわ!」
「拳銃もちゃんとあっただろ。10万ドルもある! 心配するな!」
二人は興奮して怒鳴り合いになっていた。