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亨利(ヘンリー)
亨利(ヘンリー)
novelistID. 60014
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池の中の狂気

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 ホテルの一室で受話器を耳に当て、ワインをグビッと飲みながら、その男は家政婦からの報告を待っている。その受話器の向こうから遠くの方で『パン。パンパンパン。』と言う音が微かに聞こえた。
 男は少し身震いした。「ついにやったか?」ワイングラスをサイドテーブルに置き、他に何か聞こえないか、受話器の向こうに集中した。暫くすると、バタバタと走るような音が聞こえ、ガチャッと大きな音がして、女の息の音が聞こえた。
「ひぃ、ひぃ、ひぃ・・・」
「どうだ? うまく行ったか?」
「・・・あぁあ。・・・ああ。」
女は、声を出すことができないようだ。
「どうなんだ?」
「やった・・・やったわ。」
「死んだか? 確認したか?」
「あぁぁ、分からないぃ。えぇ、あたまを、撃ったわ・・・」
「女房は。死んだのか?」
「胸に3発、撃った・・・」
「よくやった。まあ落ち着くんだ。」
「ええ。お金は? お金を頂戴!」
「分かっている。約束は守る。まず、落ち着いてミスがないか確認するんだ。」
 女は吐きそうになるのを我慢して、受話器をテーブルの上に落とし、水道から片手で水を汲んで飲んだ。そして電話口に戻り、目を強く瞬いて話し始めた。
「これからどうすればいいの?」
「まず、もう一度寝室に戻って、二人が死んだか確認しろ。確認が済んだら、もう一度ここに戻って来るんだ。」
「分かったわ。」

 暫く沈黙が続いた。男は何もせず、緊張して女が戻るのを待った。
「大丈夫。二人とも死んでるわ。」
今度は突然声が聞こえて、男はギクッと驚いた。
「そうか、これでもう安心だな。」
「早く、お金を頂戴!」
「なら、まず証拠を消すんだ。」
「いいえ、時間ならたっぷりあるわ。後始末する前に、お金を見せて頂戴! 私もこのまま逃げるなんて、馬鹿なことはしないわ。」
「そうか。分かった。じゃ、まず引き出しの鍵を探せ。鍵は外の車庫の工具箱の中だ。」
その後、女は何も言わずに。電話口を離れた。

作品名:池の中の狂気 作家名:亨利(ヘンリー)