池の中の狂気
「それともうひとつ困ったことになったわ。」
「どうしたんだ?」
「拳銃を庭の池に落としてしまったの。」
「え? 池?」
「ええ。深くてよく見えないのよ。灯りが要るわ。」
「・・・すまん。・・・うちに、池なんか・ない・・・」
「!・・・え・・、ぎゃ!ぁぁぁーーーーー」ガチャ。
ツーツーツーツー。
ホテルのソファに深く腰掛けた男は、受話器を置いたその震える手でグラスを掴み、残ったワインを飲み干した。窓の外に目をやると、ライトアップが消されたエッフェル塔を照らす、冷たい満月がこちらを睨んでいた。
終