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②残念王子と闇のマル

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すると、王子の指がするりと大腿を撫で、奥深くへ入ってくる。

「…!ぁ…んっ。」

身体中に甘い痺れが走り、私はたまらず王子の首にしがみつく。

王子は私の胸に顔を埋めて口づけながら、奥深くから掻き出すように愛撫してきた。

そのたびに、今まで感じたことがない強烈な目眩がするほどの甘い痺れに全身が震える。

頭まで突き抜ける快感に、自分でも驚くほど激しい嬌声をあげた。

王子の体も熱くなり、視線を交わすと情熱的な瞳で見つめられる。

「王子…もう…私…。」

身悶え、王子の頭を掻き抱きながら私は王子を求めた。

すると王子は眉根を寄せ、何かを堪える素振りをした後、私の中から指を抜いた。

「…洗浄終わり…。」

王子は熱の残る表情で私を見つめ、優しく微笑む。

「洗浄…?」

呼吸を乱したまま潤んだ瞳で王子を見つめると、王子がそっと口づけた。

「そ。妖精になって浄めたの。」

(妖精ごっこ、ってそういうことか。)

私は愛しさのあまり、王子…カレンにギュッと抱きついた。

汚れた体だからと卑屈になって、自分からはカレンに触れまいと…名前も呼ばないことで距離を置こうとしていたけれど、カレンは私がどんなに汚れても抱きしめ浄めてくれる。

私を傷つけないように優しく、愛を伝えてくれながら浄めてくれるんだ。

そうわかった瞬間、涙が溢れ出す。

「…!ぅ…うっ!」

両手で顔を覆って泣くと、カレンがギュッと抱きしめてくれた。

「やっと泣いた。泣かなきゃダメだよ、マル。心の中の辛いこと悲しいこと、涙で全部吐き出して洗い流さなきゃ。」

それから、嗚咽する私をカレンは抱きしめて、背中を優しく撫でてくれる。

近くの樹上に理巧の気配を感じたけれど、私が泣き止む頃にはいなくなっていた。

(みんな、私を大事にしてくれている。)

カレンといると、闇の深淵で見失っていた人間らしさを取り戻していく。

闇の深淵では、ただただ息を潜め、何が起きても表情を変えることすら許されなかった。

どんなに辛いことがあっても、それを表に出すことは恥だとされた。

窮地は甘んじて受け入れ、脱する機会を冷静にうかがうのが忍…だから先程のキースにされた程度のことは、辛いと言うことすら許されないレベルの出来事だ。

だけど、カレンはそれを辛いことと認めて受け入れてくれる。

「カレン…私、カレンをどんどん好きになってしまってるんです…。どうしようもないくらいに…。」

私の言葉に、カレンが大きく目を見開いた。

「マル…また呼んでくれるの?カレンって…。」

カレンは、私の頬を冷たい手でそっと撫でる。

「僕を…許してくれるの?」

(許す?)

「おまえを信じきれず傷つけてしまった僕を、また信じて、心を許してくれるの?」

私は慌てて首をふった。

「許すもなにも…私が汚れすぎていてカレンに釣り合わないから、距離をとっていただけです。」

カレンは切なく瞳を細めると、私を抱きしめる。

「マルは、汚れてなんかないじゃん。…おまえはどれだけ蹂躙されても、傷つけられても、いつでも真っ直ぐ背筋を伸ばしてて、綺麗だよ。」

背中を撫でながら、カレンは私の首に口づけた。

「でも、もし汚されてしまった時は、僕がまた洗ってあげるよ。」

そして絡んだエメラルドグリーンの瞳は、湖のように透き通って潤んでいた。

「マル…どうしようもないくらいに好きになってるのは、僕もだよ。」

王子は顔を傾けると、ちゅっと音を立てて軽い口づけを落とす。

「名前を呼んでもらえるのが、こんなに嬉しいなんてな…。」

そう言って笑うカレンの頬に、涙が一筋伝った。

(カレン…。)

私はそんなカレンの頬を両手で挟むと、カレンの目尻に口づけて、涙を舐めとった。

とたん、カレンの頬が真っ赤に染まる。

(…!)

驚く私の胸にカレンが顔を埋め、ため息を吐く。

「やばい…幸せすぎる…。」

しばらくカレンは私の胸に顔を埋めていたけれど、気持ちを切り替えるように顔を上げた。

「さ、今日は目的地、香りの都に入るよ!」

そして王子は力強く、私を痛いくらいに抱きしめると、湖から上がる。

湖で冷えた体に、夏の暑い陽射しが心地よかった。
作品名:②残念王子と闇のマル 作家名:しずか