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②残念王子と闇のマル

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理巧は私を一瞥すると、私の暗器のほうに歩いていく。

理巧が何を考えているのかはわからないけれど、これは逃げるチャンスだ。

「…ぁ、んっ。」

わざと喘ぎ声をあげる。

そして熱を帯びた瞳で、斜めにキースを見上げた。

大抵これで、落ちる。

案の定、キースはブルッと身震いすると、壁の鎖に繋がれている私の脚を広げようとする。

けれど鎖が邪魔して広がらない。

キースが、ズボンの左前ポケットから鍵を取りだした。

そして足の鎖を解く。

両足は解放されたが、両手首はまだ壁の鎖で固定されていた。

キースは私のズボンと下着を脱がせようとするけれど靴が邪魔して引っ掛かっている。

舌打ちしながら私の靴を放り捨て、ズボンと下着もようやく取ることができた。

(うまく焦らしたかたちになるけれど、もう少し欲しがらせないといけない。)

キースが自らもズボンを膝まで下ろし、性急に私の脚を広げ、腰を沈めてきた。

「んっ!ぁ、ぁ…はっ…」

私は敢えて煽り立てるように嬌声を上げ、キースをこの行為に集中させる。

そして喘ぎながらキースのズボンのポケットへ足の指を伸ばし、鍵を指先に引っ掛けた、その時。

私の暗器を拾った理巧が、扉を開け放つ。

そこには、王子が立っていた。

「!!!」

私はキースに激しく突き上げられながら、王子と視線が交わり、思わず引っ掛けていた鍵を落とす。

キースの荒い呼吸と軽い金属音が、部屋に響いた。

王子はその澄んだ大きなエメラルドグリーンの瞳を見開いて、入り口で佇んでいる。

理巧は王子の後ろで扉を閉め、王子の隣に立った。

「ぃゃ…」

私の漏らした小さな声を、キースは聞き漏らさない。

私を激しく突き上げながら、ニヤリと笑う。

「ほら、カレンにも娼婦の姿、見せてやれよ。それか、やめてほしいなら懇願しろ。」

(ダメだ!…弱味を見せたら、つけこまれる!)

私は唇を噛み締めると王子から目を逸らし、キースの律動に合わせて腰を動かし喘ぎ声を上げた。

「ははっ、さすが娼婦だな!好きな男の前でも、別の男を平気で受け入れて悦ぶんだな!!…遊び人を虜にするだけあって、やっぱりイイな…おまえ…。」

(こいつ…絶対殺す!)

殺気のこもった目付きでキースを見た時、目の端で王子と理巧が言葉を交わしているのが見える。

気になってもう一度目の端でその様子を捉えると、理巧が何かを王子から受け取った。

その瞬間、理巧はその手に持っていた私のクナイを鋭く放つ。

「ぐっ!」

キースは私の中へその熱を放ちながら、体を仰け反らせ、そのまま床へ崩れ落ちた。

見れば、キースの背中に深々とクナイが突き刺さっている。

「…き…さま…。」

口から血を吐きながら、キースが身を起こす。

それを駆け寄ってきた王子が長い脚で蹴り飛ばし、私を抱きしめた。

そして私の顔を胸に強く抱きしめた時、その背中で断末魔の声が上がった。

王子はホッとため息を吐くと、私の腰に自分の上着を巻きつける。

「遅くなって、ごめんな。」

王子は私が落とした鍵を拾うと、私の手の鎖を解いた。

そしてもう一度私の体を抱きしめ、背中を優しく撫でてくれる。

「辛かったな。でも、もう大丈夫だ。」

その声が、涙声になっている。

「マル、よく頑張ったな。」

王子はその濡れた瞳で私を見つめると、殴られて腫れた頬をそっと撫でた。

そして長い指を切れた口角に滑らせると、ゆっくりと顔を傾けて唇を重ねる。

「生きててくれて、ありがとう…。」

啄むように数回唇を重ねた王子は、再度私を抱きしめると、私の衣服をととのえてくれる。

「そういえば、マルの弟が…。」

言いながらふり返ると、そこにはキースの姿も星の首も理巧も、何もなくなっていた。

血飛沫すら、消えている。

「理巧が、処理したんだと思います。」

王子は私を抱き上げると、そのまま出口へ向かう。

「処理?」

王子は、首を傾げた。

「私たち忍は任務後、その痕跡を完全に消すことが大事なんです。だから、遺体も完全に消します。」

王子は「ふ~ん。」と小さく相槌を打つけれど、それ以上は聞かなかった。

私は抱えられたまま、外へ出る。

そこには、リンちゃんと星がいた。

「え?…星…。」

私が驚いていると、王子は私を抱いたまま星にひらりと跨がる。

「あの首は、弟くんの工作。」

王子が星をゆっくりと歩かせると、リンちゃんもきちんとついてくる。

「工作?」

私が訊き返すと、王子は前を見たまま頷いた。

「そ、工作なんだって。僕もよくわかんないけど、弟くんがそう言ってた。」

私が自分で星に跨がろうとすると、王子がそれを制する。

「ダメだよ。もう離さないんだから。」

そう言いながら、私をしっかりと片腕に抱きしめた。

「ちょっと目を離したら、すぐどっか行っちゃうし奪われちゃうからさ。もう絶対、目も手も離さない。」

(王子…。)

私を抱く王子の手が、震えている。

口調はいつも通りだけど、私がいなくなって心配してくれたのか、キースにされていたことがショックだったのか…なんだか私より王子のほうが傷ついているように見えた。

「よく、居場所がわかりましたね。」

そんな王子に少しでも安心してもらおうと、私は敢えて普段通りにふるまう。

あたりを見回すも、ここは明らかに人気のない深い森で、街道から遥かに離れていそうだった。

「ん。弟くんの手紙が残ってたからね。」

(手紙?)

私が首を傾げると、王子は一瞬だけ私を見て、またすぐ前を向く。

「会計済んでふり返るとマルがいなくてさ、リンちゃんとこに行ったらマルの荷物と弟くんからの手紙が落ちてて。…もう返しちゃったから現物見せれないけど、すっごいシンプルな地図と名前だけ書いてあった。」

ふふっと笑いながら、王子は星を止めた。

「シンプルすぎて、探すのに時間かかっちゃった。ごめんな。」

(ああ、さっき王子が理巧に渡してたのは、理巧の手紙だったんだ。)

忍は僅かな痕跡すら残せないから、理巧は自分が関わった証拠になる手紙も全て回収し、遺体と共に消したのだろう。

私がぼんやりと考えているうちに、いつの間にか湖が目の前に広がっていた。

「きれい…。」

幻想的な森の中の湖は、透明度が高く、思わずそんな言葉がもれた。

王子はふっと優しく微笑むと、私を抱いたまま星から降りる。

そしておもむろに服を脱ぐと、私の服にも手を掛ける。

「ちょっとだけ、妖精ごっこしよ?」

そう言って柔らかく微笑む王子は、妖精の王子そのものだった。

(妖精ごっこ、って何?)

首を傾げる私に構わず私の服も脱がせると、王子は私を抱いたまま湖の中へ入っていく。

「ははっ、冷たいな!」

言いながら、王子は私の顔を見上げる。

「マル…かわいいな。」

そして、唇を重ねてきた。

初めは啄むような口づけだったものが、すぐに熱を帯びたものへとかわる。

(王子…。)

切れた口内に痛みが走り血の味がするものの、王子は傷を労るように優しく深く口づける。

あまりの優しさにじょじょに体から力が抜け、口づけながら私は王子に身を委ねた。
作品名:②残念王子と闇のマル 作家名:しずか