小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

①残念王子と闇のマル

INDEX|4ページ/9ページ|

次のページ前のページ
 

私の言葉を王子が遮った。

「そんなこと、許さない。」

私を覗きこむエメラルドグリーンの瞳が、熱を帯びる。

「いざという時は、二人で力を合わせて切り抜けるんだ。これからはなんでも二人で…でしょ?」

そこまで言うと、王子は私の唇をふさいだ。

啄むような軽い口づけを、角度を変えながら繰り返す。

「マルが何て言おうと、もうマルは従者じゃない。忍でもない。花の都の王女だよ。僕と肩を並べて歩く、恋人だよ。」

王子は口づけをやめると、ジッと私の瞳を覗きこんだ。

その瞳は乞うような、切実な光を宿している。

「隣を歩いてくれないの?マル。」

(王子…。)

私は全身が熱くなりながら、小さく頷いた。

「先程も申し上げましたが、公的な場でない時は、王子の隣を…」

「カレンだよ。」

王子は私の頬を、掌でそっと撫でる。

「王子って呼ばないで。カレンって呼んでよ。」

王子の熱い掌に、更に鼓動が高まり全身が焼けるように熱くなった。

私はその熱を振り払うかのように、頭を強く左右にふる。

「…呼べません。」

私が掠れた声で言うと、王子はそのエメラルドグリーンの瞳を大きく見開いた。

「隣を歩かせて頂くだけで…精一杯です。そんなにたくさん、要求しないでください。」

王子の瞳から視線を逸らすと、王子が大きく息を吸い込むのが聞こえる。

そして大きく息を吐きながら、荒々しく抱きしめられた。

「…んだ、そういうこと。」

言いながら、唇を重ねられる。

「拒絶されたかと思って、すんごい不安になったじゃん。」

王子は軽く首をふって、私の唇を割った。

そして舌を滑り込ませてくる。

「半年…ほったらかしたから…もう気持ちが冷めたのかと…」

音を立てながら、荒々しく舌を絡ませる王子は、途切れ途切れに愛を囁いてきた。

「マルも…僕を好き?」

訊ねられるけれど、その口づけの激しさに私は翻弄され、答える余地がない。

力強く抱き締められて身動きできない中、私は隙をついて王子の腕の中からするりと抜け出した。

突然、私がいなくなって王子は呆然としている。

その様子を、近くの樹の上から見下ろしながら、私は呼吸と心を落ち着けていた。

「マル!」

王子が木の上を見上げて、私を探している。

「マル、なんで逃げるの!?」

王子はその美しい金髪で陽の光をキラキラと弾きながら、私を必死で探していた。

「やっぱり…もう冷めたの?」

気持ちと呼吸が落ち着いた私は、泣きそうな声の王子にきちんと気持ちを伝えたいと思い、リンちゃんの背中に飛び降りる。

「マル!」

王子が切ない表情で、私をふり返った。

「王子。私…王子のことが好きです。」

私の突然の告白に、王子が大きく目を見開く。

「王子のことが、ずっと大好きです。これからも、気持ちが冷めるなんて絶対にありません。」

私は胸の前で両指を組み、祈るように王子を見つめながら言葉を続けた。

「王子のそばにさえいられれば幸せで…けれど王子はいずれ、どこかの姫を迎えられる。…その時に自分が辛くならないように、性別を隠して、嫌味を言ったり辛辣に接したりして、王子に近付きすぎないようにしてきました。」

王子が、口をへの字に引き結ぶ。

「…まさか…王子から愛してもらえるなんて、思いもしませんでした。」

私は両掌を拳にして、ギュッと握った。

「だから、王子に愛してもらうたびに、嬉しいしこの上なく幸せなんですが…心が追い付かないんです。」

王子は星から降りると、リンちゃんの背中に立つ私に手を差しのべる。

戸惑う私に、王子は穏やかな瞳でにっこりと微笑んだ。

「何もしないから、降りておいで。」

私は恐る恐る王子の手を取ると、音を立てずに地面に降り立つ。

王子は私の前に跪くと、そっと右手の甲に口づけた。

「マル、ごめん。」

私を見上げるそのエメラルドグリーンの瞳は、切なく揺れている。

「僕の気持ちばかり押し付けて、ごめん。全然、マルの気持ちを考えてなかった。」

言いながら、左手の甲を握り、そっと口づけた。

「これからは、マルの気持ちを考えるように気を付けるよ。だから。」

王子は泣きそうな表情で私を見上げる。

「だから、消えないで。…気持ちは、できるだけ言葉にして。僕が何かしてしまったら、消えるんじゃなくて、どうしたらいいのか教えて。」

王子の手が、小刻みに震えている。

私は気がつくと、王子の頭を胸に抱きしめていた。

「ごめんなさい。これからは、そうします。きちんと言葉にして、お互いが居心地の良いようにしていきます。」

私が言うと、王子がギュッと腰に腕を回して抱きついてくる。

「マル…胸、硬い…。」

(…ん?)

「鎖帷子がダイレクトに当たる…。」

「はっ!!」

私は慌てて、王子から手を離した。

でも、王子はキュッと抱きついて、離れない。

頬を胸に寄せて、目を瞑る。

「ほら、鎖帷子のせいでマルの鼓動も聞こえない…。」

そして腰に抱きついたまま、私を上目遣いに見上げた。

「なんかこいつにマルを盗られてる気がして、嫌い。」

(よっぽど気にくわないんだな、鎖帷子。)

私は小さく笑うと、王子の頭をそっと撫でた。

「わかりました。明日からは、着ません。」

「やった!」

王子は即座に立ち上がると、私の手を引く。

「さ、余計な時間くっちゃった!宿まで急ぐぞ~!」

そして二人でそれぞれの愛馬に跨がり、国境の宿場町まで急いだ。
作品名:①残念王子と闇のマル 作家名:しずか