①残念王子と闇のマル
私のこのあまのじゃくなところも全て包み込むように微笑む、その頼もしい様子にまた私の心は甘く高鳴った。
(もうすぐ20歳になるっていうのもあるのかな?)
私たちは城の皆に賑やかに見送られながら、城門へ到着した。
すると、そこには既に王様のお姿が。
私たちは慌てて手を離すと、王様の前まで行き、跪く。
王様は私たちの前にかがむと、穏やかな笑顔を王子に向けた。
「カレン、体に気を付けてな。」
「はい、父上。マルがいるから大丈夫です。父上も、僕が戻るまでお元気でいらしてくださいね。」
王子が柔らかく微笑む。
王様は王子と笑顔を交わした後、跪く私の顎を大きなその手で包み込み、上向かせた。
「マル。おまえは一国の王女なのだから、そのようにへりくだるものでない。」
言いながら私の手を握り、立つよう促してくださる。
王子も私の背中を軽く叩いて、一緒に立ち上がってくれた。
すると、王子と同じ長身の王様は、悪戯な笑顔で私を見下ろし
両肩に手を乗せる。
「もう、おまえは従者でないのだから。」
(…!)
言葉に含まれた意味に、頬が熱を帯びる。
「おまえがカレンのそばにいてくれるから、私は何の心配もしておらぬ。」
王様は慈愛に満ちた笑顔で私の手を握った。
「甘やかして育ててしまったがゆえ世話をかけると思うが、よろしく頼む。」
私は王様の手を握り返し、頭を下げる。
「王子様のそばにいることをお許しくださり、ありがとうございます。命にかえましてもしっかりとお守りし、必ず王子様をご無事にお戻し致します。それまで王様も、どうかご自愛ください。」
私の言葉に、王様は声をあげて笑った。
「マルは、どこまでも優秀な従者だなぁ。」
「もう従者じゃない、って言ってんのに~。」
王子まで肩を揺すって笑い、いつしか見送りに出てきてくれていた女官や侍従、騎士達まで笑いだす。
そんな和やかな雰囲気の中、王様は私の頭をその大きな手で優しく撫でてくださった。
「マル、おまえも体に気を付けて。必ず元気に帰ってくるのだぞ。おまえの帰りを待っておるぞ。」
(王様…。)
そして私と王子は、皆に見送られながら城門をくぐる。
次にここに戻るのはいつになるのか…そう思うと、何度も後ろをふり返って皆の姿やお城を記憶に焼きつけた。
(そういえば、故郷を最後に去った時も、同じことをしたな。)
たった3年だけれど、このおとぎの国は私にとってすっかり第二の故郷と呼べるまでになっていたのだ。
(不安はないけれど、寂しい…。)
私は慣れ親しんだこの国の色んな景色を記憶に焼き付けようと、城門の外に出てからもずっと辺りを見回していた。
「そんなに警戒しなくても大丈夫だよ、優秀な護衛さん。」
(!!)
からかい混じりの柔らかな声に、私は慌てて前を見る。
すると、王子が金髪を朝日で輝かせながら、こちらをふり返って笑顔で私を見ていた。
「いつもそうやって、僕を守ってくれてたんだね。」
(…今はちょっと違うけど…。)
後ろめたさに視線を逸らすと、王子が私の隣に並んでくる。
「こうやって一緒に並んでお出かけって、初めてだね。いつもマルは陰から護衛してくれてたからさ。」
言いながら、本当に嬉しそうにその瞳を細めた。
「幸せだなぁ♡」
ご機嫌の王子は城下町の人々に、輝く笑顔で手をふっている。
その都度、黄色い歓声があがった。
(派手だなぁ。)
王子の華やかさに、改めて目を細める。
(太陽叔父上に似てるなぁ。)
そこにいるだけで、場が華やぐところがそっくりだ。
(これからの行程は聞かされてないけれど、いつか故郷の地を王子と共に踏めたとしたら、叔父上にも会って頂きたいなぁ。)
そんなことをぼんやり考えながら、私はこの国の景色をしっかりと記憶に焼きつけていく。
そして王子と共に、ゆっくりと城下町を下った。
しばらくのんびり行くと、甘い香りがする。
…彼女の、果樹園だ。
作品名:①残念王子と闇のマル 作家名:しずか