私の結婚
美しい姉(二)
その夜、私は母と姉に挟まれ、川の字になって休んだ。疲れた上にお酒が入った母は、すぐに寝息を立て始めた。するとしばらくして、姉が声をかけてきた。
「鈴ちゃん、寝た?」
「ううん、なんだか眠れなくて」
私は上を向いたまま答えた。
「鈴ちゃんは学生の頃、男の子とお付き合いしたことあった?」
姉らしくない話題を出してきたので、私は驚いた。
「そりゃあ、私にだって彼ぐらいいたわよ」
美人に言われると、ちょっとカチッとくる質問だったが、先ほど言いすぎたばかりなので私は冷静に答えた。
「私ね、彼氏いない歴二十七年だったのよ」
「ええ!!」
私は思わず起き上がり、隣に寝ている姉を見た。途端にぞくっとくる寒さを感じ慌てて布団にもぐりこみながら、姉の方を向いて横向きになった。そして、その美しい横顔を見ながら、次の言葉を待った。
「中学の頃、仲のいいお友だちがいたの。そのお友だちは時々、男子から私への伝言を預かってきて、
『橋渡し役は疲れるわ』
なんて冗談ぽく言っていたんだけど、ある時、
『玲ちゃんが悪いわけではないのはわかっている、でももう引き立て役は嫌なの』
そう言って、私から離れて行ってしまったの。
後でわかったのだけど、そのお友だちがずっと好きだった人から、私に手紙を渡すように頼まれたらしくて……」
姉も体の向きを横にして、私の方を見て話し続けた。
「私は悲しくて、それからは極力目立たないように心掛けたんだけど、高校に入っても似たようなことがあって……
もう私は、すっかり懲りてしまったの。それで就職してから声をかけてくれる男性がいても、きっとその人を好きな女性がいると思うとお断りするしかなかった。馬鹿な話でしょ?」
思いもよらぬ打ち明け話だった。
私はずっと、姉が羨ましかった。あの姿ならどんなバラ色な日々だろうと思っていた。だけど、実際には姉には姉の苦労があったのだ。
たしかに、子どもの頃から大好きだった姉だが、同性としてはやはりどこかにその美しさを妬む気持ちはあった気がする。他人ならなおさらのことだろう。人生は甘くない、そんなわけのわからない言葉が浮かんだ。
「主人とは友だちの紹介で出会ったことになっているけど、本当は違うのよ」
姉は恥ずかしそうに、天井を向いて言った。
「仮面をつけた仮装パーティーで知り合ったの」
「ええ!!」
またも、私は驚きで起き上がってしまった。そしてまた、すぐさま布団にもぐりこんだ。
「口元しか見えないような格好で、いろいろな人と話したの。容姿がわからないって、いいわよね。のびのびと話ができて」
そうかなあ? と私は納得いかなかったが、黙って聞いていた。
「何人目かに話した人ととても気が合ったの。同じような思いをしてきた人のような気がして。それが今の主人」
「え! じゃあ、お兄さんの顔も知らずに気に入っちゃったの? でも仮面を取った時は驚いたでしょう? 超イケメンだもの」
「うん? どうだったかな……外見より、話が合ったことがうれしかったことを覚えているわ」
美人の感覚はわからないと思った。ただ、それが本当なら、さっき母が言っていたことは当たっていることになる。外見ではなく、一緒にいて楽しいこと、話が合うこと、お互いにそう思えること、が大切。でもやはり、私は外見を切り捨てて考えることはできないと思う。ということは、結婚はまだまだ先になるということか……