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盗賊王の花嫁―女神の玉座4―

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 ことが起こっても対処方法がまるで見つからず、ただ呆然と次の変化まで呆然としているだけが続くとさすがに気が滅入る。
 黒羽がやりきれないため息をつきかけた時、局員がふたりを局舎へと呼びにきた。どうやら地下の食料貯蔵庫の床が崩落しているのが見つかったらしい。そしてその床下には、さらに地下室があるという話だった。
 次は一体何が出てくるのかと、黒羽達は嫌な予感を抱きながら貯蔵庫へと向かった。
 芋や米の入った麻袋が積み上げられた貯蔵庫の奥に四名の支局員と、本局からの来ている神剣の分家のロフィットがいた。はしごと命綱も用意されていて、下に降りる準備が出来ていた。
「そんなに深くねえな」
 黒羽は人ふたりは入れるほどの大きさの穴を覗き込んでみる。灯が届く底は落ちた床が重なっているが、そう深そうでもない。
「とりあえず、三人でおりてみようか」
 そしてロフィットに言われるままに、黒羽と漓瑞は地下へと降りる。命綱をつけて三人が降りると、上からカンテラが下ろされて地下室の中が見渡せた。
「全部、壷っすね」
 カンテラに照らされた範囲は見渡す限り一抱えほどある壷がぎっしりと並んでいた。
「これも、魂の容れ物なのでしょうか……」
 漓瑞がカンテラを手近の壷に近づけると、鉄の蓋がしてあり側面にはに何か模様が彫られるのがわかった。
「なんだこりゃ。全部この模様入ってるのか? おふたりさん、心当たりあるか?」
 ロフィットが壷をひとつひとつ確認しながら、黒羽と漓瑞に訊ねる。
 ずらっと並ぶ壷と、彫られた模様。既視感があった。
「……砂巌の谷底の光景に似ていますね」
 答を出したのは漓瑞だった。
 かつて神々が監理局によって神が滅ぼされた砂巌の、かつての王宮があったはずの場所に無数に並んでいた水晶の塔。その全てに古代文字で神の名が刻まれていた。
 そして改めて地下室の壷を見渡して、三人は絶句する。
 これが全て監理局が滅した神々だとしたら、百はくだらない数だ。
「支局の真下、というか。墓所の真上を支局にしちまったのか」
 ロフィッカが唖然とした口調でつぶやく。
「元々、この建物は霊廟として建てられていたのかもしれません……」
 漓瑞の言う通りなら神々の霊廟を監理局は奪い取って地下の墓所を封鎖してしまったことになる。
「本当に、ろくなことしてなさそうだな……あ」
 過去の監理局の横暴なやり口の片鱗が見えて思わず悪態をついた黒羽は、監理局創設に携わった神剣の血族のロフィットの横顔に気まずくなる。
「気にしなさんな。俺も、先祖がろくでなしだったかもしれない覚悟はしてる。納得できる理由がありゃいいんだけどな。わざわざここに支局置く理由に真っ当なもんは期待できねえか」
 ロフィットが安心させるように笑顔を作って、黒羽は彼が派遣された理由が分かった。
 真実と向き合う覚悟がある。剣の腕は神剣の分家の宗主だからもちろん信頼が置ける。それ以上に精神の真っ直ぐさが頼もしい。
 これまでは信頼の置ける少人数でアデルを追ってきたが、こういう味方が増えるのはとても心強い。
「……瘴気は出ていませんね」
 漓瑞が周囲に感覚を研ぎ澄ませ訝しむ。
「ここの神様達がなんの恨み辛みもねえってことはないよな」
 瘴気は痛みや苦しみ憎しみなどの負の感情から発生するものだ。ここに埋葬されているのが、監理局によって滅ぼされた神ならば瘴気がないはずがない。
「生き残りの血族が監理局に対して敵意を持っていましたから、丸く収まったということはありえないでしょう。ここは陥没のあった場所の近くですし、なんらかの影響はあるはずです」
 貯蔵庫は陥没のあった中庭と目と鼻の先の位置関係らしかった。
「中、開けて見るっつーのはやめたほうがいいよな」
 ロフィットが壷の蓋に恐る恐る手をかけて考え込む。
「ええ。それは危険がすぎるのでやめておいた方がよろしいかと」
「あのよ、中に入ってるのって魂なんだろ。それって形とかねえよな」
 空けてみたら中身はないのかもしれないと黒羽は思う。
「そうだなあ。あー重いけど壷そのものの重みか。ありゃ、底がねえぞ」
 ロフィットが少しだけ壷を持ち上げて左右に軽く振りかけて違和感に気付き、壷を傾けると確かに底が抜けていた。
「最初からこうなってたっていうことか? ……こっちもだ」
 黒羽も手近な壷をいくつか傾けてみるが、やはりどれも底がなかった。さすがに壷の中を覗き込むのはやめておく。
「聖地の石が溶けたのと同じでしょうか」
「五分五分っつーとこじゃあないか。なんにしろ、あの大穴とこの壷が無関係っつーことはねえな」
 ロフィットが地下室を見渡して首を捻りつつ、うんとうなずく。
「この地下室をどう処理するかは本局で決めることだな。ハイダルと藍李様にこれも報告だ」
 そしてロフィットは対処保留を決め、三人が貯蔵庫に戻ると何事かと様子を見に来た人が増えていた。
 ひとまず昔の貯蔵庫の名残ということにしておいて、穴の周囲はさらに崩落の危険もあるので出来るだけ近づかないようにとロフィットが支局員に一通り説明して鉱山の対策に集中することとなった。
「こういうことにもちょっとは慣れたと思ったけどよ、全然だな」
 予測のつかない事態が次から次へと起こって、手も足も出ないと黒羽はぼやく。
 異常な瘴気の噴出や大量の妖魔と、戦うという選択肢があったこれまでとは全く違う。とはいえ、先には妖刀を抜く状況にはなりそうだ。
「慣れていいものでもありませんが、これまでの事例と共通項もありますからまったくなにもわからないというわけもないでしょう」
「まあなあ。味方も増えたしな。悪いことばっかじゃねえか」
「……味方が増えるということは敵も増えることにつながりますけれどね」
 漓瑞が重々しく言って、黒羽は彼を見やる。
「そうか西部局と北部局は敵、になるのか」
「敵味方の数が増えればもはや戦争です。ここまできたら大きな争いはさけられないでしょう」
 監理局はすでにふたつに割れている。監理局内でも大きな対立がすでにできているのは知っている。
「あたしはただ、護りたいもんを護れればいいんだけどなあ。……みんなそう考えてるのは一緒か」
 自分が護りたいものは、他の誰かの護りたいものと相反するかもしれない。というより、すでにしているのだろう。
 神々との対立も遙か昔に始まってまだ終わっていない。
「しっかし、支局の地下にあんなものが埋まってるっいうのはやっぱり嫌だなあ」
 改めて考えると床を踏むことそのものに違和感を感じてしまい、黒羽は少しの間足下が気になってしょうがなくなってしまったのだった。



***

「墓地……」
「墓地ですね」
 一旦それぞれの公務をあらかた終える頃に支局からの連絡がきて、藍李はハイダルはと書庫で合流しげんなりした顔でつぶやく。
「何かはあるだろうと思ってたけど、墓の上ねえ。霊廟だった可能性があるなら、資料から何か手がかりは出るかしら。でも、問題は後のことね。いきなり崩れるってことはなければいんだけれど……」
 今、異変が起きているのは地中だ。最悪支局の物理的な崩壊という可能性もあるだろう。
作品名:盗賊王の花嫁―女神の玉座4― 作家名: