社会に不適合な二人の
実母の記憶
私が持っている実母の記憶は数えるほどしかありません。
その中でも、母の記憶と言って最初に思い出す記憶は毎回、幼稚園の頃に実母が出て行った記憶です。
そこで私が何をしていたのかは分かりません、どうしてそこにいたのかも憶えていません。
私の記憶の中で最初に視界に写っているのは、母が台所で父に殴り倒されたところでした。
母は倒れて苦しそうな顔を私に向けて、頼んできたのです。
「救急車を呼んで、電話で119番回して、お母さんが殴られてますって。」
私は母に頼まれたと言うことで事態も良く分からず電話の所に行きました。
その頃の私の家はダイアル式の電話で、私はなんとか11を回したのですが、幼くて記憶の続かない私は後が分からなくなってしまい、母の所に番号を聞きに戻ったのでした。
「きゅうきゅうしゃ、なんばんだっけ?」
と聞く私に母は絶望したような顔を見せたことで、私は事態の大きさを理解したような気がしました。
直後に私は兄に別の建物へと連れて行かれたのでした。
次の日に、私は母が出て行ったことを知らされました。
私が電話をしていれば、救急車が来て、どうにかなったとも思いません。
しかし、あの日の失敗は二度と取り返しがつかないのだと、育つうちに感じるようになっていきました。
そんな理由で私は電話が嫌いです。
ですが、わざわざ言うほどのことでもないので、友人に電話番号教えるけどあんまり電話しないで欲しいと頼むときには適当に理由をはぐらかしていると言うお話し。
作品名:社会に不適合な二人の 作家名:春川柳絮