社会に不適合な二人の
鍵を自発的に落とすのは怖い
私と弟が、まだ子供で、一緒に暮らしていた頃。
二人で一つの家の鍵を常に持っていました。
共働きではなかったのですが、継母は自分が家にいるときも鍵を開けるのを嫌がり、そして私達が家を出入りする時にいちいち鍵を開けるのが面倒だからと鍵を持たされていました。
学校に出かけるため、家を出る時間は同じで、私の方が年上だと言うことで、何となく私が鍵を閉めて鍵を持つようになっていました。
鍵をなくせば、もちろん私のせいで私が怒られていました。
しかしある時、私ばかり鍵を持っていなくちゃいけないのが腹が立ってきて、弟にも鍵を持つように言ったときがあります。
「持って。」
「いや。」
「もってって。」
「いやだって。」
弟は決して鍵を受け取ろうとはしませんでした。
単純に弟も怠け者で面倒が嫌だったからです。
そのやりとりで、子供だった私は無性に腹が立ってきました。
「じゃあ鍵おいてっちゃうから、知らないからね。」
そう言って私は鍵を道路に捨てて、知らぬ顔で歩き始めました。
弟はそう言われてでも持つのが嫌なのと、鍵は大切なものという感覚から、落ちた鍵の辺りで立ち止まってしまいました。
ある程度歩いてそれでも弟が拾わなかったら、拾いに戻るつもりでしたが、結局先に弟が鍵を拾って私に追いついて来て、その日は弟が鍵を持っていました。
結局、その次の日からはやっぱり私が鍵を持っていました。
鍵を捨てた振りというのは、当時でもとても怖かった憶えがあります。
大切なものとして渡されたものを放るというのが、とても怖かったです。
あまりにも怖かったので、同じようなことは二度とやりませんでした。
今はもう二度と出来ないことのように感じています。
――
[鍵]…十回以上は落とした物。そう言う呪いがかけられてそうなアイテムです。
作品名:社会に不適合な二人の 作家名:春川柳絮