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遅くない、スタートライン 第3部 第1話 9/16更新

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(5)

あきとくんは笑い疲れたみたいで、2階のベッドでお昼寝をした。またパパであるマサ君も疲れたみたいで、あの狭いシングルベッドに入って、4歳のあきとくんと一緒に寝た。千尋さんは2人の寝顔を見て、タオルケットをかけなおしてそっとドアを閉めたそうだ。

「親子一緒の顔して寝てるわ。あきとくんはマサ君によく似てるわ」
「でしょ。マサ君のミニチュアだわ…4歳にしては大きいし笑った顔もマサ君そっくり」
と私が言うと、有ちゃん達もうんうん…うなづいた。もうすぐカフェは閉店時間なので、上の2人を起こさなければいけない。

千尋さんが大樹君が着ていた服やパジャマ類を持ってきて、カフェのテーブルの上に広げておいた。
「あら…懐かしい。大樹君のお気に入りパジャマさん!物持ちいいねぇ!千尋お母さん」
「でしょ。ま…あなたと一緒!お気に入りは残してますの。でも聞いたときはビックリしたわ。マサ君に子供がいるのは知ってたけど」
雄介義兄さんもうんうん…うなづいた。

「2歳前にママがいなくなって、幼稚園入る前にジィジが入院して…バァバが付き添いしている時はお手伝さんといたんだね。4歳の子じゃ病院に連れて行けないもの。ジィジ達ももうお年だもん。4歳の男の子のパワーについていけないよね」
「うん。そうなんだ…バァバも体の調子も良くないみたいで、娘に相談したけどね…」
「ダメだったのね」千尋さんはため息をついた。

その時だった…マサ君が2階から下りてきた。有ちゃんが代わりに2階に行ってあきとくんのそばに居ることになった。知らないお家だもん…誰かがついていなきゃ!

「千尋さん・雄介義兄さん俺からも話します」と言ってマサ君は椅子に座った。

「今日…あきとを育ててくれたお義母さんと話をしました。あきとの成長だけを楽しみに今まで頑張ってきましたが、お義父さんの具合があまり良くありません。またお義父さんは回復する見込みがなく、主治医からも余命宣告を受けています。またこれから、あきとの成長も見守ることも難しくなりました。今日はもし…俺が良ければあきとを引き取って育ててくれないかと言われました」

千尋さんと雄介義兄さんは俺の話を聞いて思案しているようだ。美裕は俺の顔を見ている…美裕にはあきとを2階に連れて行った時に話した。
「マサ君はどうしたいの?」
「4歳のあきとくんは知ってるの?このこと」千尋さん達は言った。

「理解はしているかわかりませんが、お義母さんが幼稚園に入園した時からあきとに少しずつ話したみたいです」
「車の中であきとくんが言った言葉は、パパにはママじゃないママがいる、パパとママがいる子はこんなこと話せないよね?雄介義兄さん」
美裕は雄介義兄さんに聞いた。雄介義兄さんは退職前に小学校の先生をしていた。言わば教育のプロだ。

「うん。あきとくんはあきとくんなりに理解してるだろうね。あきとくんには聞いたの?パパと暮らしたいかって」
「まだ聞いてません。ダイレクトに聞いてもいいんでしょうか?あきとに!」
マサ君が躊躇するのもわかるような気がする。

「美裕はどう思ってるの?マサ君が父親であるけど、あなたは血の繋がりはないのよ」千尋さんが美裕に聞いた。
美裕は無意識か自分のおなかに手を当てた。それを千尋さんと雄介義兄さんは見ていた。
「……マサ君に子供がいることは交際を始める前に聞いてたし。私…あの子を産んでやれなかった。私…あきとくんをマサ君と一緒に育ててみたい。あきとくんが私をすぐにはママと認めてくれなくてもね。2歳までのママの記憶しかないけど、あきとくんのママは彩華さんには変わらないから」その言葉に…雄介義兄さんがうなづいた。

「2歳であろうが、5歳であろうが…顔や姿は覚えてなくても、子供は不思議なもんだ。胎内にいた記憶や2歳までの母親の感触・温かさは忘れないと思うよ。でもそれにプラスしてマサ君と美裕であきとくんを育てることだな。あきとくんがそれをどう受け入れてくれるかにもよるけど」

俺はあきとを引き取ったら、美裕に負担をかけると思っていた。また産まれてこなかった…しょうたくんの事を思い出して辛い思いをするのではないかと思っていた。でも…美裕はあきとを俺と一緒に育てていきたいと言ってくれた。
「美裕…いいのか?あきとを引き取って育てても」俺は美裕に確認した。

「うん。でも…ちゃんとあきとくんの気持ちを聞いてからだよ」
「うん。俺…あきとにわかるように話します。4歳だけどちゃんと言うべきですね?」
千尋さんと雄介義兄さんはうなづいた。

その時だった…
2階からあきとの声と有ちゃんの声が聞こえた。あきとが起きたようだ…