小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

遅くない、スタートライン 第3部 第1話 9/16更新

INDEX|5ページ/11ページ|

次のページ前のページ
 

(3)

俺は今日はちょっとドキドキしていた。自分の息子に2年ぶりに逢うんだ。嫁さんにあきとには二度と逢わないでって言われたから、それ以来あきとには逢っていない。あきとに逢いたくて嫁さんの実家近くまで行ったけど、あきとには逢わずに帰ってきた。インターホンまで行ったら、庭でお義父さんの声が聞こえて、情けないことに俺は怖くて逃げだしてしまった。その事も美裕には話した…

美裕は俺の手を握り、こう言った。
「今度はね…逃げずにあきとくんに逢って、抱きしめてあげてね」と。美裕は14週に入った時に赤ちゃんがおなかの中で死んでしまった。生きていれば、あきとと同じ年だと言った。また胎児名もつけていたが、火葬の時にあきら先生の一文字を使って【章汰=しょうた】と名付けたらしい。あきら先生も俺と同じで男の子ならばこんな名前がいいと、ノートに書き残していたそうだ。美裕は今日は俺が1人で行くべきだと言った。また機会があれば、あきとに逢わせて欲しいと言って、俺の手に紙袋を持たせて送り出してくれた。

俺は待ち合わせの公園に30分前に着いてしまった。約束は11時だったのに、気が急いていたのか…家も早く出た。でも美裕は何にも言わずに笑顔で送り出してくれた。ホント…美裕には感謝している。あまり気分良くないだろう?前妻との間にできた子供に逢いにくいんだ!俺はそう思っている。俺は公園のベンチで自分のスマホのを操作して、1歳の誕生日の時の写真を見ていた。あまり毛が多くなくてまだ地肌が見えていたあきと…歯も上下4本ぐらいだったかな?生まれた時は先生の予想外で、3,600gもあった。そんなあきとをおなかで育てた嫁さん…大変だったのに、俺は仕事に逃げていたんだ。何て言うのか…結婚してみて嫁さんとの性格が合わない、価値観が違う…あげればキリがないけど。交際時代は何を見ていたんだ?と嫁さんとの結婚を悔やんだりした。向こうも同じように思ってるさ。

後ろから軽い足音が聞こえた。また…女の人の声も聞こえた。俺は振り向いた…

アニメキャラクターのキャップとおそろいの靴を履き、リュックサックを背負っていた男の子が俺の目に入った。俺は…声が出なかった。
でも…あきとが先に声を出した。

「パパぁ」って…俺は潤んだ目を手の甲で押さえながらうなづいた。でも…声に出して名前を呼んでやらないと!
「あ、あきとぉ」あきとはバァバこと…お義母さんの顔を見た。バァバはうんうんとうなづいた。
あきとは俺に向かって走ってきた。写真でしか知らない俺を…1歳なんて記憶にも残ってないのにさ。パパって呼びながら俺に向かって走ってきたんだ。俺は無意識に膝を折って、あきとが胸に飛び込んでくるのを待ち受けた。

あきとを抱きしめた時に…1歳の時はつかまり立ちはしていたが、まだ歩けなかったあきとが…駆け足で走っている。また抱きしめた時に4歳の男の子の体重の重さに俺は…お義母さんの前なのに、涙が出て止まらなかった。そして言ったことが…

「あきと…ごめん!ホントごめんな…今まで」とあきとに謝っていた。お義母さんもハンカチで涙を押えていた。またお義母さんはあきとに言って、リュックサックの中のタオルを俺に渡すように言った。
「はいぃ…これでふいていいよ。パパ」俺の目にタオルを当ててくれた…あきとだ。

あきとは…初めはテレくさいのか俺の横にお行儀よく座っていたが、俺はあきとの頭を軽くなでて…
「膝の上に座る?それとも肩車がいい?あきと」と言ったら…
「かたぐるま…」と言ったら、お義母さんが…

「かたぐるま…してほしいってちゃんと言いなさい」とあきとに言った。あきとは…うんうんとうなづいた。
「はい…バァバ!かたぐるましてほしいです」と俺に言った。お義母さん…お義父さんありがとうございます。あきとをちゃんと躾けてくれて!
「いいよぉ!後は飛行機もするぞ」
俺はあきとの手を引っ張った。

美裕が持たせてくれたお菓子を食べたあきとは…
「バァバ!おしいし!このクッキー」とすごく喜んでくれた。また美裕ってば…4歳の男の子が好きなアニメキャラをデコペンで書いてくれてるし、マドレーヌも一口で食べれるように小さく焼いていた。あきとはバァバを見て…
「バァバ!もう1個いい?」と聞いた。お義母さんは笑顔でうなづいた。

あきとが遊び疲れて俺の膝の上で寝てしまった。季節的にも寒くないけど、俺は着ていたサマージャケットをあきとにかけた。
お義母さんは…あきとの帽子を脱がせながらこう言った。

「3年前はごめんなさいね。感情的になり…娘の言うことを鵜呑みにしてしまって。あきとが大きくなるにつれて考える事があったの。娘はあなたが全面的に悪いと言ったけど、娘も悪いところがあったんだって。あの子わがままでプライド高いでしょ!そういう風に育ててしまったのは私達だから…雅人さん、随分我慢したんでしょ?本当に申し訳ございませんでした」お義母さんは俺に頭を下げた。

「お義母さん…頭を上げてください。我慢はお互い様ですよ…俺はさっき、あきとを抱きしめて改めて、彩華になんでもっと優しく接することができなかったんだろう?って思いました。俺こそ申し訳ございませんでした。父親なのに」俺は頭を下げた。

「まだ3年前は、あなたも彩華も20代で若いこともあったから…私達も大人げない態度を取ったわ。あのね…雅人さん聞いてくれるかしら?」
お義母さんは俺の目を見て言った。

あきとはお義母さんと一緒に、お菓子を作ってくれた美裕に花をプレゼントすると言って、公園の近くのフラワーショップに入って行った。俺は…美裕に電話をかけていた。まず美裕の許可を得なければと思った。

美裕はちょうどランチ休憩だったみたいで、すぐに電話にでてくれた。俺はあきとの事を話した…
「そうなの…いいよぉ。連れてきてぇ!私もあきとくんに逢いたいな」と言ってくれた。俺は近くのカー用品ショップでチャイルドシートを取りつけてもらった。じゃないと…あきと乗せられないしさ。

お義母さんを病院の前まで送ってから、俺はあきとに車の中で話をした。あきとはお義母さんから言い聞かされていたのかな?俺の話をちゃんと聞いてくれた。
「いいよぉ…バァバがいってた。パパにはママじゃない…ママがいるから」と言った。ま…美裕を見てあきとが何て言うかな?美裕はどうやら…子供ウケするキャラだからさ、カフェに来る子供達も、
「みひろちゃん」ってちゃんづけで呼ばせてるし、美裕も子供達の名前も覚えて1人1人名前で呼んでるしさ。子供達がカフェに来てる時は、カフェテラスはプチ幼稚園状態だ。でも子供達の喜ぶ声が聞こえるのも嬉しいと言った美裕だ。