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SPLICE ~SIN<後編>

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「今の人がいろいろ知っていそうだよね」
隣のバーカンティンに話しかけるが
「経過を待とう、そしてお前に任せる」
そう言われてしまった。


が。
三番目に出てきたのは人ではなかった。
立てばスプライスと同じほどの身長がありそうな獣で、しかし顔はどこか愛嬌がある。
おとなしそうなのだが、人語を話せるとは思えなかった。
「俺が訳してやるよ」
しかたない、とバーカンティンが出てくる。
「あぁ、うん…では『力を抑えるため』って?」
戸惑いながら話しかけると、体格から想像したのとは違う、高いフィィィィと表現するのが近いような鳴き声で応答した。「さっきカティサークが話した『ハザマ』に力を一部置いて、ってヤツらしいな。」
フィィィィィィィ
再度鳴く。
「『精霊』って呼ばれている奴らの力を補強して押さえつけるって言う意味もあるそうだ」
へぇ、と表情に出して一度バーカンティンに視線を向けた後向き直る。
「それが『生きてゆく力を補充する』ってこと?」
ティィィィィィ
少し違う答えが帰ってきたようだ。
「……違う……」
「?」
バーカンティンの様子も少し変わった。
”カティサーク”とバーカンティンと両方みくらべる。
「『同化しない為』とイコールか?」
バーカンティンの質問に
チィィィィィィィィ
との答えだった。
「?」
自分にも教えて欲しいとバーカンティンを覗き込む。
「…さっき言ったことの訂正だ」
どのカティサークだろうか。
「…”この世界の”カティサークが言ったことだ。先ほど『精霊』のことを”他の世界で人生を終えた”と言ったが終わっていない者もいるんだそうだ。時間の概念も越えているらしいが、この世界に同化してはそれらの『精霊』と呼ばれる者達は消えてしまう。故に”この世界のものではない”という意志を補強して、それぞれが存在する力が強くなるように生存するのが、『ハザマ』より力を補充するということだそうだ。この世界に同化してはカティサークの内側にある力を押さえつける膜が薄まって、いつか漏れ出るか暴発してしまう。精霊たち自身も散り散りになってしまう。良いことなんて何もない…この世界はカティサークにとって危険な世界だったんだ」
一鳴きに随分いろいろ有るのだな、とそんなことに感心してしまった。


次に出てきたのは、不思議な格好をした肉体の色彩も不思議な女性だった。
ぽやぁっとしている。
とりあえず人間の形をして同様の声帯を持つ生物ならば(この世界の)カティサークが使用している言葉を話せるようなので安心する。
「あなたは僕に話しかけたことありますか?」
とりあえずいくつか疑問は解決したということにして、初めの質問を投げかける。
フルフル
女性はちょっとオドオドしたように首を横に振った。
「文化的にもこの世界のカティサークの認識するものになるようだな」
「そう、意志が流れてきたの?」
「あぁ」
気が小さそうな女性はそんな二人をこそこそ見ている。
「えぇと…」
出てきてもらったし話しかけないとな、とスプライスも戸惑う。
「……無理になさらないでも……よいですよ?」
戸惑うスプライスに向けて初めて発した声は透き通るかのようだった。
ココが洞窟の中であるのを忘れてしまいそうな、風に溶け込むかのような声だ。
どちらかといえば、此方からその言葉をかけたい女性だ。
「…あなたのいた世界はどんな世界?」
ふとそんなことを聞いてみたくなった。
「私の生きる世界は…軍事国家の乱立する世界で、私はある国の軍部の下部に所属しています。文官で何もしていませんけれど」
軍人、という言葉がしっくり来ない女性だった。
「ねぇ、あなたは死んでいないでしょう?」
フとバーカンティンが言葉の言い回しで気づいた。
「…死んだ記憶はありません。眠っている間に何らかの原因で突然死したというのならば別ですが…最後の記憶は眠るところでもないのです」
先ほどの”カティサーク”が言っていた様に大分複雑なようだ。



その後幾人か話すも大した情報は得られなかった。



そうやって暫くたってこの世界のカティサークに雰囲気の似た者が出てきた。
少し小柄で、髪型がザンバラで向かって左半面を隠しているのだが、それ以外は似ている。
「貴方は僕に声をかけたことがありますか?」
本当は「貴方は死にましたか」とも聞きたいのだが、自分がされたらショックだろうという事で追々聞いて行くことにしてみた。
『はい、あります』
(あれ?)
声が思ったよりも高い。
いや、それよりもYESの返答が帰ってきた。
「何所で……」
とりあえず、咄嗟にでた質問はそちらだった。
『貴方の胸に掛かる黒いヴィラローカの羽。それを貰い受けるようにと』
「『禁域』で声をかけてくれた人だ」
目的のうちの一人とやっと会えた。
『はい、そうです』
「貴方はヴィラローカの力を知ってるの?」
コレを知っている者がいるだろう、というのもカティサークに『精霊』とどの程度対話できるのか聞いた所以だった。
この世界のカティサークが精霊と確りと対話できないのなら得られなくても仕方ない情報だろう。
『カティサークよりは分かるかもしれません』
石像に視線を移してそっと優しく微笑む。
「ヴィラローカの正体は?」
『多分であれば』
スプライスに向き直る。
バーカンティンにも視線を向けるが、対話相手をスプライスと定めたようだ。
半面を隠してしまっているせいで一つだけの目がスプライスを真っ直ぐ見つめる。
『”ヴィラローカ”は私の姉であり、私自身でもあります』
『私』で自分を指し示す。
『これは多分でしかないのですが…』
と話し始める。

この世界のカティサークとヴィラローカ同様腹違いの兄弟だった”ヴィラローカ”と”カティサーク”だが、或る時”ヴィラローカ”は自分の肉体が消失する事件にあう。
その際マッタリと生活していたカティサークの体に目をつけ半分乗っ取った。
半身に他の人格を宿し、二人で一つの体で共同生活を送った。
『いえ、”送っている”かも知れませんね』
やはり死んだ記憶は無いと告げる。
『ただ、私の世界においては私自身よりも不思議な力を持っていた人ですから、私の人格がこうやって次元を越えて旅することになった時に彼女も何らかの影響を受けたところで不思議は無いと思うのです。もしかしたら、彼女がこの世界に流れ着いたせいでこの世界にもカティサークが誕生したのかもしれませんね』
そこまで話したところで、ハッと表情を変える。
『…あくまで推測ですよ?しかし、姉のように思えて仕方ないのですよね…』
腕を組んでウーンと唸る。
「…逆ということは考えられないか?」
「逆?」
”カティサーク”も首をかしげる。
「この世界で姉弟だったから、そっちの世界でも兄弟だったってこと」
『時間が錯綜していますからそれは有りそうですね』
…といったところで、話が前後してしまうだけ話の決着にはならない。
しかし今の話からするとこの世界のヴィラローカが妙な力を持っていても多少は納得できるような何かが浮かび上がってくるような気はした。
作品名:SPLICE ~SIN<後編> 作家名:吉 朋