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SPLICE ~SIN<後編>

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『精霊』に読ませるにしてもこれが一番『精霊』にとって大変な作業だったという。
もともとそれら『精霊』のいた世界とは違う文字であったし、中には文字を読む事が出来ない者もいるようだった。
「そしてやっと見つけたんです、この島のことを」
場所までは分からなかったが、『精霊』が感覚で探せるということが分かった。
そして旅立つ際に再度『禁域』へ立ち寄りそれは起こった。
「『世界の亀裂』の向こう側へ、一時的に僕の内側からあふれる力を押しやって肉体の機能を取り戻しました。ただしその方法は一箇所の『亀裂』に対して一度しか行えず、また有効時間もありましたから『亀裂』をたどる旅になりました」
「それであんな迂路を取ったのか」
見上げるように話を聞くバーカンティンに、カティサークもうなづいて返す。
「僕が育った地は『天空の神』の領域外れでしたから『天空の神』やそれ以外の神さまの力も強くなかったですが、それぞれの神様の力が強く働く場所では『精霊』が上手く活動できないということでした。…実際にもそうでした」
「『天空と大海の大陸』って結構ムラが有るよね」
スプラスも同意する。
「…お前はその『大海の神』の神官だろうが」
「神官っていわれても、神じゃないから自分の思う通りじゃないことも多々あるよ」
『神』が近しい存在であるが故のザックリとした感想だった。


「そもそも『神』という表現も適切か分かりませんが、一番近いものがソレということで話を進めさせてもらいました」
「言葉自体の機能と能力の限界があるからしかたないさ」
伝わってくる雰囲気は分かるのだが、どうも言葉にしようとすると『神』としか表現できないようであるのも分かった。
この世界に多数ある言葉の中にはカティサークが言いたいことにもっと近い言葉もあるだろうが、カティサークが使用できる言語ではない。
『天空と大海の大陸』のようにはっきりした『神』のいる世界では、仕方の無いことだろう。
スプライスはその辺りをあまり気にしていないようだった。
「…ねぇ、その内側から膨れる力というのを亀裂にポイッとすると亀裂が消えるの?」
旅の中で不思議に思っていたことを思い出す。
というよりも、質問を考え続けていたようだ。
「『亀裂』に変化は生じるようで変化の中には消えることもあるようですが、必ず消えるということは無いようです。」
「でも、旅の中で全て消えていたよね?」
初めの村以外のものは消えたり、消えかけたりしていた。
今度は隣のバーカンティンに尋ねるが、バーカンティンの表情は答えが分かっていそうだった。
ちょっとあきれたような顔をしている。
「ソレは姉でしょう」
「…ヴィラローカも『何かある』ってこと?」
いや、考えれば『何かがある』ことは分かるのだがなにがあるのかが分からない。
ヴィラローカの正体についても知りたいとは思った。
「姉については…僕にも全てが分かるわけではないのですが…」
ヴィラローカとカティサークの父親は『亀裂』の研究をしている者だった。
個人的に行っているだけだったからその研究や調査の結果が世に出ることは無かったが、『亀裂』『歪み』の調査をしてゆく中でそれらに寄ることも多く肉体は何らかの影響を受けていたと思われる。
そんな父をもつヴィラローカは、本人が思っている以上に『ハザマ』の気配を受けていた。
「どうやら姉も僕とは違う形で『ハザマ』に漂うものの影響を受けているらしいのですがソレが何かは知りません」
「あ、もしかして漆黒の翼も関係あるのかな?」
たしかヴィラローカの親族に漆黒の翼を持つものはいないと言っていた気がした。
さらに地域的にも漆黒の翼は珍しいとも言っていた。
ただ、地域というには実際住んでいた場所は母の故郷ではないとのことだから何処まで知っているのかは分からない。
「残念ながら僕にはソレさえ分からないです。ただ分かるのは、『歪み』を補正し『亀裂』を縫い合わせそれらを消すことが出来るというだけです。それ以外は獣人のハーフとして普通の力を持っているに過ぎなかったかと思います」
「ただ『それだけ』の点が結構でかいんだな」
自身が前世で行ってきたことをバーカンティンは思い出す。
世界中の『歪み』『亀裂』を消して回っていた。
ただし自分にはその力は無かったから能力を持つものを探し出して…なかなか見つからないこともあった。
世界中探しても、だ。
「あとは…そういえば、カティは『精霊』と話したと言っていたけれど姿を見て対話するの?」
バーカンティンが、カティサークより付与された前世の自分の力を使用して質問事項をまとめようとしている横で、こちらは記憶をひっくり返して質問を考えていたスプライスが先に訪ねる。
「姿を見ることは出来ません。声も言葉がじかに心に入ってくる感じで『音』としての声では無いです…多分」
「姿のイメージとかも入ってこない?」
「?」
何のためにスプライスがそんな質問をするのかバーカンティンが首をかしげる。
「全く…ただ、僕自身は見ることはできませんがお見せすることは可能かもしれません」
「話せるかな?」
「やってみましょう」
とりあえず、過去に何かあったのだと思いバーカンティンは見守ることにした。
カティサークの姿がフッと消え石像だけになると一瞬部屋の明度が落ちた。
一瞬のことで直ぐに明るさは戻るが、同時に再度部屋に『精霊』といわれた『前世のカティサーク』の気配が濃くなる。
「……」


先ほどカティサークが立っていた場所より少し向かって左手に人影が現れる。
カティサークと似た顔立ちをしているが…肌の色少し濃く、目の色が緑、体型は少しガッチリしている。年齢は同じくらいだろう。
「…僕に声をかけたことはある?」
そっと声をかける。
「声をかけたことは無いが、夢の中では会ったことがある」
その”カティサーク”がクイッと右手を動かすと、傍らにそっくりな顔をした女性が現れて”カティサーク”に寄り添うような仕草をして消えた。
その女性に見覚えがあった。
確かに夢の中で見た。
その者はもココに眠るカティサークよりは力強い笑みを浮かべて消えた。
それ以上は質問もできなかった。


次に現れたのは、カティサークよりも背が高く幾分体格もよく先ほどの”カティサーク”よりも『武人らしさ』を感じる者だった。
手に剣を持っていたからかもしれない。
「僕に声をかけたことはある?」
先ほどと同じ質問をする。
今度の”カティサーク”はうなづいた。
『『禁域』で。ヴィラローカに私たちの声は聞こえないから、声を聞けるあなたの存在は大きかったです』
「カティサークが『禁域』に行く理由とは何だったの?」
夢遊病のようにフラフラと消え、気づくと『禁域』で発見される。
それ自体はカティサークも知っていたようだが、どうしてかは当時は知らなかった。
『内側からあふれる力を抑えるためと…この世界に同化しない為、私たちが生きてゆく力を補充する為』
「!」
思ったよりも多くの情報が帰ってきた。
「カティサークはソレを知ってる?」
『知らないです』
やはりこちら(精霊)に聞いて正解だと内心自分の判断にうなづいた。
『次の者が続けます…』
「え?!」
そう言って二人目が消える。
作品名:SPLICE ~SIN<後編> 作家名:吉 朋