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SPLICE ~SIN<後編>

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「…僕の出生についてお話しましょうか」
二人でうなづいた。

カティサークはこの世界の生まれで間違い無かった。
ただし、母親がハザマから出でた者だったという。
母親は自身とは違うモノに身を侵食されていた。
それを開放するには自身の死か何かをそれを移すしか無かった。
そんな母親と出会ったのが、父親になる。
二人ともそのモノを取り出す術は持たなかったが、万に一つの可能性をかけて子供を作りそれにモノを宿らせる方法をとった。
それほどまでに苦しかったのだろう。
子供は出来て、思った以上の成果を出した。
子供は子供で意志を持たずに、そのモノとして生まれたのだ。
それがカティサークになる。
カティサークが赤ん坊の頃は母と二人で森の奥にひっそりと暮らしていた。
その後どうして母の元を離れて翼人の村に行かなければならなくなったのかは分からない。
ただ、父はその母を救おうとして旅立ち、またカティサークの行く末を案じてなにか探していたようだということが分かった。



「それでカティの正体は何で、俺がハザマで出会った意志とは何を目指していたんだ?」
そして、どうしてここにいるのかもスプライスは聞きたい。
きっと『正体』こそがその答えなのだろう。
カティサークはその答えに関してなんと答えようか少し迷っているようだった。
「言いにくいことか?」
「言いにくいと言いますか、それを口にしても大丈夫なのかと思いまして少し説明を…」
「口にしても大丈夫か、っていうとシップの本名みたいだね」
そういうことなのかな?と主にバーカンティンに向けて尋ねる。
思考の形としてはカティサークにも流れているだろう。
バーカンティンとスプライスの友人で、『現人神』の一種ともいえる者がいる。
その者は仮の名前は多く持っているのだが(シップも仮の名前)、本名については口にしてはいけない(通常の人間では口に出来ない)、それ自体が魔法のような世界に影響を及ぼす力を持った言葉だった。
多分、そういうことだろうと判断する。
「えぇ、そうですね」
案の定カティサークはそう答えた。
そして続ける、
「安直に言えば『神を作る』ということですね」
さっぱりと出てきた言葉に二人はあっけに取られた。
「『神』を?」
どういうことだろうかとスプライスが声を上げる。
「この世界ではなくて、どこかの世界の『神』になるべきモノを作っているのです。様々な世界で様々な経験をして一つのそういったモノを作っている。それの途中経過が僕です」
「だから『ハザマ』と同じ気配がするのか」
「この世界のモノ以外は『ハザマ』のものと分別するならそうです」
「カティはこの世界以外で経験したこととか覚えているの?」
「覚えていません。僕はこの世界で生まれてこの世界で死んでゆく。そういうモノです。ただ…」
ザワザワと先ほどの気配がまた膨らむ。
その気配に対してバーカンティンは分かったことがある。
スプライスも感じ取った。
一つのようで幾人分もの気配の集合体であるようだ。
「育った地では『精霊』と言っていましたが、これらは他の世界でのそれぞれの僕自身です。異世界での人生を一通り全うした僕自身が僕の中にあり、また外から助けてくれていたのです」
人数は判別できないが、複数気配があっても「同一」だと感じる所以もそれで分かった。
また『精霊』だけでは説明できない現象も理由が分かった。
「その、自分の正体が分かったからココに来たの?」
そういうことになるのだろうな、とスプライスが尋ねるとこれにも少し迷った。
「順を追ってどうしてココに来ることになったのか教えてくれないか?」
スプライスのせっかちをなだめるようにバーカンティンがお願いする。
本当はバーカンティンも少しでも早く多くの情報が欲しい。
細々とした情報は得ながらココまでやってきたが、故に刺激された好奇心も多い。
先ほどカティサークがサラリと述べた答えを含めて怖い部分も感じるが、実害が発生するとは考えられない。
「ではお話します。少し長くなりますので、腰を下ろしてください」
二人とも忘れそうだったが、カティサークは精神体だから立ち続けたところで疲れは感じないのだった。
同じように疲労を感じるのだと思って立ち続けていた事に気づく。
「スプライスさん、覚えておいででしょうか。僕の肉体機能が働く範囲が狭まっているという話を」
その頃はまだ自分の正体は知らなかったが、それでも日々狭くなる生体機能が正常に働く範囲をはっきりと感じていた。
肉体機能の機能の働かない場所では『精霊』が働いてくれて不便は無かったが、働く範囲がなくなったとき命も無いと思っていた。
しかし。
ある朝起きると、起きたはずなのに視界は無く音も無く、匂いも物に触れる感覚もなかった。
後から考えればどうして「起きた」と分かったのか不思議に思わなかったのか。
とうとう来るべき時が来たかと思ったが、元々肉体生体機能の働かない地で行っていたことと同じことをすればよいだけだった。
少しあっけに取られたが、暫くそれで生活した。
ただ、さすがにそんな人間が傍にいたのでは周囲の人々は気持ちが悪いだろうと思って『精霊』の力で以前と変わらないような振りをしたし(出来たし)、できるだけ家から出ないようにもした。
そんな間に自分の内側から来る『何か』と、遠くから聞こえる『何か』…心に直接届く何かを感じた。
その二つは共鳴しているようで…ある日正体を確かめに行った。
そこは『禁域』の最奥にある『亀裂』で、そこから流れてくる亀裂の向こう側のものが自分の中にあるなにかと共鳴しているのが分かった。
『精霊』の存在がとても濃く感じられて…
その『精霊』達が『亀裂』の向こう側から流れてくるものが何か教えてくれて、カティサークの正体をも説明したという。
「ずっと一緒に育った兄弟のような感じでした」

カティサークの生体機能が使用できない状態とは何なのか。
それは『神』である力を外に漏らさないためだった。

「スプライスさんやバーカンティンさんはお分かりかと思います。この世界は人と神が本当に近い…」

神が本当に身近であるために、カティサークの中にある『神』としての力も世界に溶け込もうと出てきそうだった。
しかしそれは異質な世界の力だから、周囲に影響を及ぼすどころかこの世界におけるカティサークにも悪影響を及ぼす。
しかも、日々体内で膨らむその力を抑えるには生体機能を全てシャットアウトするしかなかった。
不幸中の幸いは、『精霊』として働く力は『神』としての力とは多少分離された部分にあって代理使用が可能だったことだ。
「それならば僕自身が消えれば問題は無いと思ったのですが…」
常時生体機能をシャットアウトしなければならないほどに力を限界近くまで圧しとどめているということは、死ぬ瞬間に一気に力が解放されて、やはり何らかの影響を世界に与える可能性があるという。
「その時はまだどうすれば良いのか分かりませんでした」
結局いつ内側からの力が圧し止められなくなるのかも分からないし、いつか死ぬ時を待っていてもいつかはその惨事が起こってしまう。
「結局自宅にある書籍を漁るしかなかったのです」
自分には直接読むことが出来ないから大変だった。
作品名:SPLICE ~SIN<後編> 作家名:吉 朋