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SPLICE ~SIN<後編>

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なんと口にしようか一瞬詰まったスプライスよりも早くバーカンティンが声を発する。
「初めまして…ヴィラローカさんですか?」
スプライスをちらりと見て姉の名前を口にする。
「そう、ヴィラローカだ。別名バーカンティンって言うんだけどな」
そして隣のスプライスの背をポンと叩く。
スプライスははっとしたように顔を上げてカティサークと視線を合わせた。
「お久しぶりです」
相変わらずの表情。
「久しぶりだね…」
それ以上何を言っていいのかわからない。
「スプライスさんは一層お元気そうで良かったです。バーカンティンさんと再開できた事も、おめでとうございます」
そのしゃべり方も物腰も変わらない。
容姿も…石化したときのモノではなくスプライスの知る姿。
気配もあのときのまま…謎の濃い精霊と思われる気配が漂っている。
「君たちのおかげだよ、ありがとう」
バーカンティンを待つ間前向きに待つ事ができたのは二人のおかげだと今でも思っている。
「僕たちは何もしていませんよ。それよりもこんな所まで足を運んでいただいてありがとうございます」
「いや!」
コレにはスプライスの反応は早い。
「僕が勝手に会いたいと思っただけだから。バーカンティン…ヴィラローカと再会できたこと伝えようと思って。なんか会いたいと思ったらここまで追いかけてきちゃったよ」
「俺はスプライスが世話になったという人に会いたいと思っただけだ」
少し戸惑うカティサークに二人はそれぞれの表情で答えた。
「長い旅でしたでしょう?」
スプライスのお陰で比較的楽な旅が出来たとはいえ、その距離は長いものになる。
服も途中で買い換えたりしたが今着ているものも決して綺麗とは言いがたかった。
山道を歩いた事を覗いても。
「カティサークはどれくらいかけて此処に来たの?」
バーカンティンのトレースによって大雑把には分かるのだが、実際どうだったのかは分からない。
スプライスとしてはその方が気になった。
「4年ほどでしょうか…良く覚えていませんが」
それでは石化した姿がスプライスの知っているときと多少違っても仕方がないと納得する。
そしてヴィラローカもそれくらいの間追い続けたという事か。
「僕たちは一年半ほどだから大分早かったのかな」
「そんなに早かったのですか」
「殆ど徒歩じゃなかったからな」
金に物を言わせた旅だと、今更ながらに思う。
船、馬車その他乗り物沢山使用した。
バーカンティンなど今生で乗った乗り物の種類としては今回の旅で乗ったものが殆どかもしれない。
「色々聞きたいことがあるけれど、いいか?」
積もる話もありそうだが、どの道聞きたいと思うことも含まれているだろうととりあえず先の確認を行なう。
カティサークの力がどれほどのモノかわからないから、こうやって話す時間がどれくらい得られそうかの確認だ。
「僕に時間は沢山ありますから大丈夫ですよ」
またにっこりと笑う。
なんでもないように返答するが、バーカンティンの意図は分かった上での返答だろう。
「そうか、ありがとう。ではまず…」
何から尋ねようか。
旅の中で思ったものが多すぎる。
「…バーカンティンさん」
こちらからは何もなさそうなカティサークからバーカンティンへの呼びかけ。
「?」
やはりスプライスと話したいのだろうかと目を見ると、真っ直ぐバーカンティンを見ていた。
「よろしければ、貴方が以前此処に置いていった力を一時的に貴方に渡しましょうか?」
「!」
コレは二人とも驚いた。
そんな事が可能だとは夢にも思わなかった。
「貴方が此処に置いていったのは、貴方の力のうちのホンノ一欠けらにも過ぎないのかもしれませんが、この場では助けになるかもしれません」
「……」
バーカンティン自身自分が前世で持っていた力、此処に置いていった(この島で眠る事によってはがれた力)がどれくらいか分からない。
対比できない故に威力も分からないというのが正確か。
今その力を身に受けて大丈夫なのか戸惑うが…
「お願いする」
自分を信じてみる事にした。


ザワザワザワ


大きな気配が近づいてきて、その大きさに圧倒されるようにスプライスが身をすくめる。
バーカンティンは寒気がはしる程度だった。
カティサークは柔和な表情のままそんな二人を見ている。
その気配がこの場を包むように広がってゆく。
「な…」
『何?』と上げようとする声も上げられない。
いや、言ったところでその正体も分かっていからか。
「バーカンティンさん、よろしいですか?」
その巨大な気配はカティサーク自身であり、バーカンティンがこの島に置いていった力の欠片でもある。
全身鳥肌が立ちそうなバーカンティンは、キュッと口元を結んでうなづいた。




世界の声が聞こえる気がする。



目の前に異質なものがある。



底から沸いてくるようなさまざまな感情。




世界は真っ白だ。





世界は真っ黒だ。





光にあふれていて、闇に覆われている。









目の前にこの世界とは異なるものがある。









「大丈夫そうですね」
突然固まってしまったバーカンティンをオロオロと心配そうに見つめるスプライスを見て、やはり表情を変えずにカティサークがバーカンティンに声をかける。
「……あ……あぁ……」
固まったまま、流れ込んでくる力になんとか流されないように踏ん張る。
「…よかった……」
心底ほっとするスプライスを見て、カティサークは笑みを深めた。
フラリと動いたバーカンティンを支えるようにスプライスは手を差し伸べるが、バーカンティンはそれを押しやる。
「コレは確かに…人間的な感情は邪魔だな」
コレが片鱗に過ぎないというなら、『人間』である今は前世と同じ力は使用できないだろうと安易に想像できる。
それともブリガンティンがいれば違うのだろうか?
「その力でいくつかの疑問の回答は出たのではないでしょうか?」
狭い洞窟の中のはずなのに、広い世界を感じる。
そして目の前の異質なものが、思ったとおりのものであることも分かった。
「ありがとう、まさにその通りだ。俺はあなたに会ったことがある」
「そうなんですか…?」
カティサークは分からないようだ。
ちょっとキョトントした表情を見せた。
スプライスはそんなバーカンティンのセリフを旅の中で聞いたことがあるので「そうなんだね」とうなづくだけだった。
「『ハザマ』の中で…『ハザマ』って何かわかるか?」
「はい。僕の生まれ故郷の『禁域』にあった異質な気配を放つ亀裂の向こう側のことですよね?」
今のカティサークは質量を感じる人型なのだが、『力』を付与されたバーカンティンにははっきりと『本来は質量を持たない人』であることが分かった。
精神体というのが適しているのだろう。
ある意味精神のやり取りである会話は細かいこと、ヴィジョンなどは特にそちらで伝えればよいので話しやすい。
スプライスは元々鈍感なので何所まで分かっているのか(理性では分かっているのだろうが)分からない。
「あぁ、その『ハザマ』に俺が落ちた時にすれ違った意志の塊のうちの一つがカティサークだった」
カティでよいですよ、といわれてうなづく。
スプライスは横でなるほど、とうなづく。
作品名:SPLICE ~SIN<後編> 作家名:吉 朋