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SPLICE ~SIN<後編>

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空には星が瞬き始め、少し風が冷たくなった。
バーカンティンがランタンを取り出して火をつけ立ち上がる。

「バーカンティンがいたのはこの辺りだっけ?」
闇でも視界のあるスプライスが近くに洞窟を一つ見て尋ねる。
「いや、もう一層下だな」
言いながら道無き道を上がってゆく。
自分の足元と行く先しかバーカンティンは照らさないが、それはもちろんスプライスが夜目が利くことを知っているからだ。
それでも道があるのか分からないような場所を進んでゆけるのは記憶ゆえなのだろうか。
「普通の人間」になったという現在の姿も、旅をしてゆく中で前世の堂々たる行動が大分見えるようになった。
前世の能力は無いから全く同じ行動を取ることは不可能なのだが、それでもふと全くの同一人物なのではないかと思ってしまうこともある。
「いくつか洞窟はあるが、平均的に下に行くほど深い洞窟で上の方が浅いな」
前方遠くの岩肌にも洞窟がある。
暗くてバーカンティンは見えていないはずなのだが、スプライスに指し示して
「あそこに有るのは二番目に浅い洞窟だ」
説明を開始する。
「ただ、一番短時間しかいられない洞窟になっている」
「短時間?」
「あそこで眠っていられるのは数百年が限度。数百年で目的を達成できるか、もしくは追い出される」
「追い出されるって無理やり起されるの?」
「起されることもあるだろうし、死体になるだけってのもあるだろうな」
「……」
うっすらと以前バーカンティンに聞いた話を思い出す。
ここは『神』と『人』が共に有って、『生』と『死』も共にある場所なのだ。
「だいたい洞窟の深さによって時間は決まるんだが、なぜか一番浅い洞窟ではなくあそこの方が時間が短いんだよな」
「もしかしてカティサークは一番浅い洞窟にいるの?」
歩んで行く角度を考えるとそう感じるのだが
「いや」
そっけない答えが帰ってきた。
「上の方にしては深い洞窟だ」
それはそれで気にはなる。

空はすっかり暗くなり短い夜の暗闇には星が瞬いている。
標高が高いわけでも無いのにあまり草木の無い山は星の光をさえぎらなかった。
それでも暗いものは暗い。
「…もしかしてそろそろ?」
何かに招かれるような気配を感じて前を行くバーカンティンに尋ねる。
「…そろそろだな…」
声に力が無い。
「大丈夫?」
歩きやすいようにあけていた間隔を狭めて直ぐ後ろから声をかける。
「…すまん、目的の洞窟前の付いたら今日は休んで明日の朝でもいいか?」
先ほどの仮眠では疲れは取れなかったらしい。
こんな長い旅をしてこれたとは言えもともと人より体力は無いはずなのだ。
そしてココが旅の終わりの地。
最後になって精神力を最も使う場所だった。
「僕はかまわないけど、一度寝てそのまま起きないなんてことないよね?」
「俺は今『力』を持たないんだからその心配も無用だろ」
そういわれても不安な部分は多い。
「お前のほうが可能性は高いよ」
理屈ではそうなのだろう。


暫くすると他と代わり映えの無い洞窟にたどり着いた。
立ち止まって奥を覗こうとするが当然何も見えない。
幾ら星明りが強くても洞窟の中までは届かないものだろう。
しかし、スプライスは強く自分を呼ぶ気配を感じるのだ。
「行きたいなら行っても良いぞ?」
また座り込んだバーカンティンが、直ぐにランタンを消してスプライスを見上げる。
ランタンはまた洞窟に入る際に使用されるため節約しようとしているのだろう。
ただ座っている分には星明りで十分だ。
「バーカンティンを置いて行くわけがないでしょう」
気を取り直したようにバーカンティンに向かって笑いかけて、直ぐにバーカンティンの横に腰を下ろす。
「明日、会えるんだね」
肩をぎゅっと抱き寄せる。
スプライスの心配性にあきれながらも身を任せることにした。
「多分な……」
スプラスが気づけば、直ぐにバーカンティンは眠りに入っていた。
確り呼吸をしていることを確かめてから、暫くスプライスはそのままで空を眺めていた。
前世で。
バーカンティンが洞窟から出てきたその夜は、火をたいてその前でこうやって眠った。
同じ地で同じようなことをしている自分がなつかしかった。



日の光の下でみても、その洞窟の入り口は他と変わりなかった。
少し高さが低いかもしれないが、入って数分も歩けば高さも十分だった。
すっかり体調を取り戻したバーカンティンが
「さぁいくか!」
と元気に言えばスプライスは結末を考えて改めて怖くなった。
「バカだなぁ。途中の道の方が恐ろしいぞ?」
「そ、そう…?」
洞窟に入ってバーカンティンの言うとおりであることは分かった。
初めから手をつないではいたのだが、その手を両手でぎゅっと握ってしまうほどに。
まず、天井が高くなった辺りで一人目に会った。
その人は外見的には石像化はしておらず、壁に寄りかかるように立っているのだが、あまりにも自然にそこにいるのでそのまま起きるときを待つのかと思った。しかし一部風化しかかっているのをスプライスの動体視力は歩きながらも確認してしまったのだ。
指先が風化しはじめていた…

次の人は更に暫く進んだ先。
地に座って目を瞑っていた。
こちらはヴィラローカ同様石像化していて少しほっとした。

その次は思わずバーカンティンにしがみついてしまった。
人が立っているのだろうが…ほぼ風化してどのような顔立ちをしていたのかも分からない。
人型をしたモノだった。
しかしここにいるからには…人間だったものだろう。
そんなものをいくつか見て、奥に行くにつれて石化していてもいなくても形を完全に残していることに少しほっとした。
カティサークが風化していたら悲鳴も上げられずに崩れていたかもしれないが、可能性の低さに覚悟も固まった。
ただ、コレだけ人がいるのに気配が一つも無いのは怖い。

否。

一つだけあった。

「俺たちの探し人は俺たちを歓迎してくれているようだな?」
時間の感覚さえ狂う洞窟の中、それでも長く歩いたと思う時間が経過した頃バーカンティンがつぶやく。
バーカンティンにも分かるほど濃厚な気配を放っているということだろう。
「随分奥なんだね」
「一番奥かもしれないな」
つまりココで目的を果たすためには長時間を要すると考えたということだ。

途中の分岐をいくつかやり過ごし、奥にその人物は眠っていた。

スプライスの記憶と多少髪型と服装が違うが顔立ちは間違いない。

そこは部屋のようになっていて石作りの台座の上に寝ていた。
台座と同化するように、石化しておりヴィラローカと同じような素材に見える。
ヴィラローカの時と違い、バーカンティンは自分の身長と同じくらい距離を開けてそれ以上近寄らなかった。
それどころかランタンを消しておいてしまう。
その動作にスプライスは驚いたのだが、明かりを消した事でその空間が薄らと光を放っている事に気付いた。
星空には負けてしまうほどの、本当に薄らとした明かりだったのだが……
二人の目の前でだんだんと明るくなっていく。


石化したカティサークの細部まで確認できるほど明るくなったところで、その足元に人影があった。
「ようこそ」
にっこりと穏やかに二人に笑いかける。
「あ…」
「初めまして」
作品名:SPLICE ~SIN<後編> 作家名:吉 朋