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SPLICE ~SIN<後編>

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「先の島でこの島の現在の状況とか聞いたんだけどな」
隣に並ばれたことで改めて感じる。
良い匂いがする…ではなくて、旅を始めたころよりもバーカンティンが年齢を重ねたことを。
大陸を巡るだけで一年近くかかった。
船旅になってからは早かったがそれでも数ヶ月。
丁度今のバーカンティンは前世で初めて出会ったときと同じくらいだろう。
「この島にいるうちの一人の為に一旦は集落が出来たんだそうだ。ただ、この地は普通の人間が長時間居られる場所じゃない。数年後には散会したそうだ。ただ、そのときの集落は宿泊施設として残っているんだそうだ」
『この島にいる』とはつまり『この島に眠る』ということ。
「宿泊施設ってそんなに人来るの?」
『眠る』とは文字のまま『眠っている』のだが、普通の人間にしてみたら『死んでいる』と同じことだ。
「祭っている『神』が居るんだから来るんだろ、お参りに。そして数年に一度祭りも行われるそうだぞ」
「…なんか随分変わったね」
「昔もそんな話題に出るほどではないが小規模のものはあったが『にぎやか』と付く祭りは無かったよな」
「『にぎやか』なんだ…」
スプライスの持つこの島のイメージとも合わない。


『神々の島』諸島においても特殊な、『神々の眠る島』がいまスプライスたちの居る島だ。
正確には『人でありながら神の力を持つ』『神でありながら人でもある』者たちが眠る土地だ。
前世においてバーカンティンは人として生まれたが、あわせて『神の力を持つ者』を制御する力を持って生まれたという。
これはバーカンティンの生い立ちにかかわる事なのだが、バーカンティンの実家であるウィクトリア家では双子の伝説というものが存在する。
最近付与された「バーカンティンとブリガンティンという双子」の話以前にもたくさんあったのだ。
そのうちの一つとして「双子が生まれた際、神の力を授けられる」という伝説があった。
内容を解析してみると双子のうち片方は神の力を授かり、もう片方はその制御を行う能力を得られるというものだった。
バーカンティンは生まれながらに制御の能力を持っていたのだが、誤ってその制御能力を持つバーカンティンが神の力を手に入れてしまった。
外から制御するために分けられていたはずなのに同一人物が持ってしては暴走しかねない。
それ以外にも理由はあったのだが、バーカンティンは『神の力』を除去するためにこの島で眠りに付いた。


この土地には『人間と神とを分離する力』があるとも言われていたので。
結果は分離前に目覚めてしまい以後分離されることは無かった。
ただし双子弟のブリガンティンが制御能力を得たので問題はほぼ解決した。


暫く歩いてゆくと石畳の道は消えた。
変わりに地面自体が岩場になっていて削られている。
「休憩とかしなくて大丈夫?」
今更かとは思うが、バーカンティンの体力を心配してというよりスプライス自身が気持ちを落ち着けたかった。
道が変わったことで旅の終着地が近いということが気持ちとして押し寄せてくる。
生きているのか、既に死んでいるのか。
生きているとしたら覚えているか。
死んでいるとしたらどのようにして他界したのか。
スプライスの気持ちを察したバーカンティンは休憩を許したが、それはほんの少しだけだった。
ココで立ち止まっても仕方ないことはお互い分かっているはずだから。
「バーカンティンは、生死くらいは分かっているんだよね?」
地に張り付いてしまいそうな腰をむりやり押し上げて先を行こうとするバーカンティンについてゆく。
今までも幾度かした質問だ。
「さぁな」
今日もやはり答えは同じ。
小柄なバーカンティンが見えない糸でスプライスを引っ張るかのごとくさっさと歩いて行くのはこの旅において幾度も有ったが、これほど見えない糸を強く感じたのもスプライスは初めてだった。
言葉も殆どなくただひたすら歩いてゆく。
歩きやすい道だから距離も結構歩いているだろう。
代わり映えしない景色を暫く歩くと岩場断面に小さな洞穴が見えるようになった。
「もうちょっとだな」
言われて心臓がはねる。
そんな様子ももちろん伝わっていて、道がわずかに広くなったところでバーカンティンはスプライスの腕に自分の腕を絡めて歩き出した。
「会うより会わないほうが後悔する」
俯きがちになるスプライスにささやきかけて、一つ合図する。
「?」
呼吸を整えながら顔を上げると、小さな集落、戸数10件に満たない程度の集落があった。
「ここだ」
(ここにヴィラローカがいる)
まだ、生きているのか死んでいるのか分からない。
黒い翼で青緑色の髪をした綺麗な…というより内面も合わせて可愛い女性だった。
ただ、一番は力強さを感じただろうか。
その彼女がここにいるという。
「……?」
人が住んでいてもおかしくないほど整った集落なのだが、中に足を踏み入れると人の気配が無い。
バーカンティンを見るも、平然とした表情だった。
無意識に止まりそうになる足を、バーカンティンが腕を引っ張って…一軒の家の前に立った。

コンコンッ

ゴーストタウンのような集落の或る家の前に立ち、ドアをノックするバーカンティン。
中に誰かいるのかと驚いてバーカンティンを見るも、待つこともせずにドアを開けて中に足を踏み入れてしまった。
その際に、組んでいた腕もするりと外してしまう。
着いて行こうかどうしようか一瞬躊躇うも一歩二歩とバーカンティンも恐る恐るであることに気づいた。
三歩、四歩。
ピタッと立ち止まってスプライスを振り返る。
「来いよ」
その声はどこか優しい気がした。
「うん」
誘われるままに室内に足を踏み入れて、空気によどみが無いことにも気づく。
しかし人の気配はしない。
生活の気配もしない。
いや、埃などが積もっていないことから人がいるような感じはするのだが『生活』とは違う気がしたのだ。
…そう。
表現するならば…
更にその家の或る部屋のドアの前に立ってバーカンティンがスプライスを手招く。
「手、つなごうか?」
うっすら笑うところを見ると扉の向こうにいるらしい。
「いや、いい…」
ギュっと手を握ってバーカンティンの背後に立つ。

コンコン

再度ドアを叩いて、この家の入り口をくぐった時のように直ぐに開ける。
耳元で心臓がなっているのをスプライスは聞いた。
バーカンティンが何を思っているのかは分からない。


「初めまして、ヴィラローカさん」


バーカンティンは声をかけるが、スプライスは声も出なかった。
知らずきつく結んでしまった唇をさらにきつくするが、当初予想していた形とは全く違う再会に戸惑いと驚きがあるような気がした。
様々な感情が錯綜して自分が何のためにココまで来たのかも忘れそうだった。


バーカンティンとスプライスの前、部屋の中央には一体の石像があった。


黒曜のような、しかし光を反射しないような材質の、女性をかたちどった石像だった。
槍を持ち、少し俯いて祈るような格好をしている。
背に翼は無い。


「ホントに美人だったんだな」
ヒョコヒョコと近づいて顔を覗き込む。
身長は同じくらいに見えるが、わずかにバーカンティンの方が高いだろうか。
作品名:SPLICE ~SIN<後編> 作家名:吉 朋