SPLICE ~SIN<後編>
足跡をたどってたどり着いた先は意外な場所だった。
いや、まだたどり着いてはいないのだが。
「まさか…」
スプライスとしてもここまで来るとは思わなかった。
「ただ、だだっ広いだけの湖とか、対岸が見えないだけの川とかってことは…」
「この風と匂いでもそう思うならそれでも良いとおもうぞ」
「…あー……」
バーカンティンに一蹴されて、認めざるを得ないことを諦める。
それはよく慣れた風だった。
暫く離れていて久々だとつい心躍ってしまうような匂いだった。
「海…海…しかも西の海……」
大陸西部の海。
大海の女神の本拠地ともいえる土地だ。
様々な思い出がある。
というか。
バーカンティンとこの大陸にやってきて、例の姉弟に合うために大陸内部にまで足を運びぐるっと回ってきて。
大陸を約半周してきたことになる。
そんなスプライスを従えてバーカンティンは海岸線から遥か彼方の水平線を見つめる。
「まさか、この先…」
当初思いつきもしなかったことだ。
こんなところまで来るなんて。
そしてもしかして…
「出てったな」
「うそっ?!」
「此処まで来て嘘を言ってどうする」
あきれつつチラリとスプライスを見るも、やはり動揺が見て取れる。
バーカンティンもまさか大陸から出て行くことになるとは思わなかった。
しかも…
「もしかして、そろそろ到達地も見えてきているんじゃない?」
スプライスのその言葉には少しドリキとした。
「いや…見えてはいないが…」
確かにはっきり見えてはいない。
まだ先は長そうだ。
「もしかしたら、という考えはある」
知っている場所かもしれない。
最終地は。
「あ、会えるかな…」
生きていてももう他界しているかもしれない年齢だが、此処まで長旅をしてくると会えそうな気もしてくる。
「まぁ、何らかの形で『ご対面』は可能な気がしてきた」
バーカンティンの予想する土地が最終地点ならば、会える可能性はたかい。
相手の生死はわからないが。
「とりあえず船の手配をしなくてはな」
町のほうへ歩いてゆくバーカンティンの背中を呆然と見詰めているとフと気づいた。
この旅をしてきた中で、一番強く『翼』の雰囲気を感じるのだ。
もちろん今は翼を持っていないし、求めている旅でもない。
それらは全てこの旅の最終地点へ到達した後に考えると言っていた。
「バーカンティン」
呼び止めると、スプライスが付いてきていなかったことに意外を感じて振り返った。
「もし…」
「?」
スプライスの言いたいことを予測しようとするがどれなのかまとまらない。
「もし、この旅の中で別の事に関しても結果が得られるようなら…」
スプライスと共に生きることのできる情報が手に入るのならどうするだろうか。
「それは無いと思う。俺の勘だけどな」
無いというより、そう思っておけということだ。
世の中、そうやすやすと『不老長寿』に関しての情報や方法が転がっているとも思えない。
今回の旅の果てに待つのは、それとは違うことのような気がする。
もしくは、触れてはいても今のバーカンティンはその条件を満たしていないはず。
前世は特別すぎた。
その『特別』を放棄したいと願って今の姿があることを忘れてはいけない。
常に自分に言い聞かせている。
言い聞かせなければならないと思っている。
「そうだ、スプライス。頼みがある」
町に出たところで珍しいことをバーカンティンは口にした。
『頼む』なんてめったに無い。
「何なに?」
ちょっと嬉しくなって返答するもその内容は
「長旅に耐えられる金銭普請してくれ」
いつもはのんびり旅をするが、今回は途中から馬車を使用したり時間短縮を幾度こなく行ったから金銭の減りも早かった。
考えればこの先もそのはずだ。
金がなくなれば働いて稼ぐ…なんて時間もとりあえずはあるか分からない。
今回の旅で二人が不安に思っているのは、到着してみたら『数日前に亡くなりました』というオチだ。
それだけは絶対に避けたい。
亡くなっていると分かっていればこの心配も無いのだが。
「じゃ、ちょっと教会寄って行かないとね……」
言われればスプライスも必要だとは思うが、なんと言ってそこまでの額を借り受けようかと説明に困る。
「”エ・バッハル”が来てくれればねぇ…」
多分タダで乗せてくれる船。
多分。
「アレは必要にならないと来ないから」
必要だと判断してくれないだろうか。
<始まりの地>
ヴィラローカとカティサークの姉弟の足跡をたどりながら旅した終焉の地。
傍までくればいい加減スプライスもバーカンティンがトレースの魔法で導き出した地が何所であるか分かったが、改めてその地に足を踏み入れるとショックが震えとなって襲ってきた。
『神々の島』諸島と呼ばれる地がある。
その海域には無数の島が存在して、それぞれにそれぞれの文化が、信仰が存在している。
『八百万の神々の大陸』にある都市国家『イシュタル』などはココの縮小版だとも言われるが、こちらの方が遥かに多く無数の神と信仰が存在している。
海域の広さは大陸よりも広いといわれるが実際は分からない。
神の力により海底に沈んでいる島(時々浮上してくる)もあるし、逆に天空に浮かぶ島もある。
確かなのは、神の存在をこれほど身近に感じる場所はないということだろう。
『神々の島』諸島は不思議な場所も多い。
バーカンティンとスプライスが足を踏み入れたのはそんな中でも代表的に不可思議な場所だった。
「何故そんなものが必要なのか」
も通常の人間には分からないのではないだろうか。
「変わって無いように見えるけど、ちょっと変わったかな?」
辺りを見回して見る。
そこは大きくは無い島だった。
島のぐるりも一日有れば歩けてしまえるだろう。
スプライスは過去幾度かこの島に足を運んだ。
バーカンティンはスプライスに比べれば足を踏み入れた回数は少ないが、滞在時間はずっと長い。
200年。
前世でバーカンティンはこの地で200年眠っていた。
そのバーカンティンの為にスプライスは来ることがあった。
「この島に結構な人数が来たらしいな。建物が結構ある」
人の気配はしないのだが、建物だけがある。
不思議な感じがした。
「相変わらず守人の一族だけが残っているのか」
そんな人いたっけなぁ?とスプライスは首を傾げるが、そもそもスプライスがいったことのある場所はこの小さな島の中の更に限定された箇所でしかないから、会っていない原住人も居るのかもしれないと納得する。
「二人ともここにいるの?」
カティサークを追って旅立ったというヴィラローカ。
ヴィラローカの足跡が途中で消えることも無かった。
「同じ場所ではないが二人ともこの島にいる。まず、俺と同じ名前の方に行くか」
バーカンティンの別名はヴィラローカ。
スプライスはその姿を見るのが怖くもあったが震えを圧してうなづいた。
人が(殆ど)いないという割には石畳に舗装された道があったりして歩きやすい。
「守人だけでなく定期的に来る人間もいるからな」
以前バーカンティンが話していたことによると、ここにいる『神』を祭っている一族も居るらしい。
先を歩いていたバーカンティンが、スプライスの隣に並んで話し始める。
いや、まだたどり着いてはいないのだが。
「まさか…」
スプライスとしてもここまで来るとは思わなかった。
「ただ、だだっ広いだけの湖とか、対岸が見えないだけの川とかってことは…」
「この風と匂いでもそう思うならそれでも良いとおもうぞ」
「…あー……」
バーカンティンに一蹴されて、認めざるを得ないことを諦める。
それはよく慣れた風だった。
暫く離れていて久々だとつい心躍ってしまうような匂いだった。
「海…海…しかも西の海……」
大陸西部の海。
大海の女神の本拠地ともいえる土地だ。
様々な思い出がある。
というか。
バーカンティンとこの大陸にやってきて、例の姉弟に合うために大陸内部にまで足を運びぐるっと回ってきて。
大陸を約半周してきたことになる。
そんなスプライスを従えてバーカンティンは海岸線から遥か彼方の水平線を見つめる。
「まさか、この先…」
当初思いつきもしなかったことだ。
こんなところまで来るなんて。
そしてもしかして…
「出てったな」
「うそっ?!」
「此処まで来て嘘を言ってどうする」
あきれつつチラリとスプライスを見るも、やはり動揺が見て取れる。
バーカンティンもまさか大陸から出て行くことになるとは思わなかった。
しかも…
「もしかして、そろそろ到達地も見えてきているんじゃない?」
スプライスのその言葉には少しドリキとした。
「いや…見えてはいないが…」
確かにはっきり見えてはいない。
まだ先は長そうだ。
「もしかしたら、という考えはある」
知っている場所かもしれない。
最終地は。
「あ、会えるかな…」
生きていてももう他界しているかもしれない年齢だが、此処まで長旅をしてくると会えそうな気もしてくる。
「まぁ、何らかの形で『ご対面』は可能な気がしてきた」
バーカンティンの予想する土地が最終地点ならば、会える可能性はたかい。
相手の生死はわからないが。
「とりあえず船の手配をしなくてはな」
町のほうへ歩いてゆくバーカンティンの背中を呆然と見詰めているとフと気づいた。
この旅をしてきた中で、一番強く『翼』の雰囲気を感じるのだ。
もちろん今は翼を持っていないし、求めている旅でもない。
それらは全てこの旅の最終地点へ到達した後に考えると言っていた。
「バーカンティン」
呼び止めると、スプライスが付いてきていなかったことに意外を感じて振り返った。
「もし…」
「?」
スプライスの言いたいことを予測しようとするがどれなのかまとまらない。
「もし、この旅の中で別の事に関しても結果が得られるようなら…」
スプライスと共に生きることのできる情報が手に入るのならどうするだろうか。
「それは無いと思う。俺の勘だけどな」
無いというより、そう思っておけということだ。
世の中、そうやすやすと『不老長寿』に関しての情報や方法が転がっているとも思えない。
今回の旅の果てに待つのは、それとは違うことのような気がする。
もしくは、触れてはいても今のバーカンティンはその条件を満たしていないはず。
前世は特別すぎた。
その『特別』を放棄したいと願って今の姿があることを忘れてはいけない。
常に自分に言い聞かせている。
言い聞かせなければならないと思っている。
「そうだ、スプライス。頼みがある」
町に出たところで珍しいことをバーカンティンは口にした。
『頼む』なんてめったに無い。
「何なに?」
ちょっと嬉しくなって返答するもその内容は
「長旅に耐えられる金銭普請してくれ」
いつもはのんびり旅をするが、今回は途中から馬車を使用したり時間短縮を幾度こなく行ったから金銭の減りも早かった。
考えればこの先もそのはずだ。
金がなくなれば働いて稼ぐ…なんて時間もとりあえずはあるか分からない。
今回の旅で二人が不安に思っているのは、到着してみたら『数日前に亡くなりました』というオチだ。
それだけは絶対に避けたい。
亡くなっていると分かっていればこの心配も無いのだが。
「じゃ、ちょっと教会寄って行かないとね……」
言われればスプライスも必要だとは思うが、なんと言ってそこまでの額を借り受けようかと説明に困る。
「”エ・バッハル”が来てくれればねぇ…」
多分タダで乗せてくれる船。
多分。
「アレは必要にならないと来ないから」
必要だと判断してくれないだろうか。
<始まりの地>
ヴィラローカとカティサークの姉弟の足跡をたどりながら旅した終焉の地。
傍までくればいい加減スプライスもバーカンティンがトレースの魔法で導き出した地が何所であるか分かったが、改めてその地に足を踏み入れるとショックが震えとなって襲ってきた。
『神々の島』諸島と呼ばれる地がある。
その海域には無数の島が存在して、それぞれにそれぞれの文化が、信仰が存在している。
『八百万の神々の大陸』にある都市国家『イシュタル』などはココの縮小版だとも言われるが、こちらの方が遥かに多く無数の神と信仰が存在している。
海域の広さは大陸よりも広いといわれるが実際は分からない。
神の力により海底に沈んでいる島(時々浮上してくる)もあるし、逆に天空に浮かぶ島もある。
確かなのは、神の存在をこれほど身近に感じる場所はないということだろう。
『神々の島』諸島は不思議な場所も多い。
バーカンティンとスプライスが足を踏み入れたのはそんな中でも代表的に不可思議な場所だった。
「何故そんなものが必要なのか」
も通常の人間には分からないのではないだろうか。
「変わって無いように見えるけど、ちょっと変わったかな?」
辺りを見回して見る。
そこは大きくは無い島だった。
島のぐるりも一日有れば歩けてしまえるだろう。
スプライスは過去幾度かこの島に足を運んだ。
バーカンティンはスプライスに比べれば足を踏み入れた回数は少ないが、滞在時間はずっと長い。
200年。
前世でバーカンティンはこの地で200年眠っていた。
そのバーカンティンの為にスプライスは来ることがあった。
「この島に結構な人数が来たらしいな。建物が結構ある」
人の気配はしないのだが、建物だけがある。
不思議な感じがした。
「相変わらず守人の一族だけが残っているのか」
そんな人いたっけなぁ?とスプライスは首を傾げるが、そもそもスプライスがいったことのある場所はこの小さな島の中の更に限定された箇所でしかないから、会っていない原住人も居るのかもしれないと納得する。
「二人ともここにいるの?」
カティサークを追って旅立ったというヴィラローカ。
ヴィラローカの足跡が途中で消えることも無かった。
「同じ場所ではないが二人ともこの島にいる。まず、俺と同じ名前の方に行くか」
バーカンティンの別名はヴィラローカ。
スプライスはその姿を見るのが怖くもあったが震えを圧してうなづいた。
人が(殆ど)いないという割には石畳に舗装された道があったりして歩きやすい。
「守人だけでなく定期的に来る人間もいるからな」
以前バーカンティンが話していたことによると、ここにいる『神』を祭っている一族も居るらしい。
先を歩いていたバーカンティンが、スプライスの隣に並んで話し始める。
作品名:SPLICE ~SIN<後編> 作家名:吉 朋