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SPLICE ~SIN<後編>

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「全ての世界を知っているわけではありませんが、恋人や伴侶であった事は一度も無いはずです。主に兄弟として、時には友人として共にいることの有る存在のようです」
触れていた手を外して、二人に触れるように合図する。
スプライスはおずおずと、バーカンティンは言われるまま堂々とその石の手に触れた。



そこはとても居心地の良い場所だった。

ふわふわと浮かんでいるようで、熱くも寒くも無くただ漂っているだけ。



漆黒の翼を持つ青緑色の長い髪をした女性の後姿が見えた。
手に槍を持っている。
その立ち姿は力強く頼もしい。
「ヴィラローカ…」
スプライスがつぶやくと、隣にバーカンティンの姿が現れた。
「めずらしい」
何時の間にやらしっかり地に足をついて立っていて、バーカンティンと並んでいる。
バーカンティンがスプライスを見上げて笑う。
「人と共に見られる他人の記憶ってのもめずらしいものだな?」
そういってヴィラローカの背を二人で見つめる。
石像と化したくらいの時間の姿だろう。
歩き出した彼女の行き先に目標物は何も見えなかった。
ただ毅然と歩いている。
「…何を求めて、何を辿って旅したのか見えないな」
ふわふわした世界から、しっかりと風を感じる世界に転じても何も見えない。
そうやって暫く歩いて、ふと振り返った。
顔立ちはカティサークに似ていた。
この世界のカティサークと同じ金色の瞳。
「気付きましたか?瞳の色」
そんな二人の横に背の高いカティサークが現れる。
二人に問いかけるその瞳の色は緑色だった。
「ヴィラローカは元々金色だったと思うけど…この世界のカティも」
スプライスが何かあっただろうかと思い出そうとする。
「……『精霊』と呼ばれる貴方方の瞳の色は殆どが緑色だ」
「コレが我々『カティサーク』のデフォルトです。金色の瞳はヴィラローカの瞳の色。彼女の弟が金色の瞳だったのは彼女によって力を封じられていたからです。お互い無意識での出来事ですが」
「カティサークも言っていた、『この世界は神と人間の世界の境界が曖昧』って奴ゆえか?」
「よくわかりましたね、その通りです」
付加された力により、まさに曖昧な境界に漂う現在のバーカンティンには分かりやすい。
「この世界で人間でいるための封印といったところですか。どの世界においても『人間』でなければならないんですよ」
「行く行くは『神』になるのに?」
その言葉にカティサークは「うーん」と首をかしげた。
「『神』というのが近いのかもしれませんが、実際に何所へ向かっているのかは分からないんですよ。これだけ時間というものを無視して我々はここにいるわけですが、過去も未来も見えないんです。言うなら全てが並列であるかのような」
「とりあえず…」
と珍しくスプライスが口を挟む。
「複雑だってことだけは分かった」
カティサークとバーカンティンがそれにうなづく。
「その通りですね」


三人の見守る前で、ヴィラローカはただ前進していた。
時々向かってくる障害物らしい影が見えるのだが、槍を一閃すると全て消える。
そうやって進んで行くが…


気づくと石像のある部屋だった。
石像とはもちろんヴィラローカのこと。
「なんもわからなかった…」
スプライスのつぶやきはバーカンティンも同意だった。
スプライスよりは感じるものがあったとは自分でも思うが、謎があるということが分かっただけということかもしれない。「私達カティサークにとっても謎の人物なんです」
「凄い前向きって事は分かった」
そこでふとヴィラローカに触れる自分の手から視線をカティサークに移した。
「?」
既にカティサーク自身が謎の塊であることは分かっているのだから、これ以上なにがあるのだろうかと小首をかしげる。
本人は分かっていないのだろうが、妙に可愛い仕草では有った。
「アンタ自身のことを訊いても良いか?」
『精霊』と呼ばれた人々も自分のことをあまり語っていなかったのを思い出す。
すこし好奇心が刺激されたのもあるが、普通に気になった。
「覚えている範囲でならお答えしましょう」
ヴィラローカの傍を一歩二歩と離れて
「天気も良いですから外へ出ませんか?」
言ってから返答も聞かずに外に出て行った。
少し名残惜しそうなスプライも結局は付いて行くことにする。


改めて外に出ると本当に天気は良くて、ヴィラローカのいる家の傍にある井戸の脇のベンチ状に据えられた石に座った。
気持ちよさそうに日の光を浴びるカティサークがこの世の人ではないということは本当に意外だ。
「とりあえず、名前を教えてくれないか?」
ベンチに座るカティサークより一人分ほど空けてバーカンティンが腰かける。
スプライスは立っていようかどうしようか迷ったが、バーカンティンの隣、カティサークより逆側に腰掛けた。
「『カティサーク』ですよ。世界が違うので言葉や発音などは違うかもしれませんが、自分の世界でも『カティサーク』という名前でした」
「じゃ、カティって呼ばれていたり?」
口を挟みたくて言ってみただけだったが、カティサークは存外まじめにこたえてくれる気らしい。
「親しい人はそう呼んでいました。ただ『カティ』だと女性っぽいので…少なくとも俺の…私の世界ではそうだったんですが、女性っぽかったので下の『サーク』で呼んでくれるよう周囲には推奨してました。失敗していましたけど」
笑の中に少し寂しさが含まれているように感じられた。
「アンタは…カティって呼んで良いか?…で、生きているのか?死んでいるのか?」
『死んでいる』と答える者も本当は死んではいないとは聞いたが、実際には死んだも同然のようではある。
「それが…分からないのです。ご存知の通り我々は肉体の生命活動が続いている間の精神を一瞬だけ切り取ってここにいます。それを考えると最後の記憶からして死んでいるような気もしますし、その後生き長らえたかもしれない可能性も否定は出来ない…けれど状況的には死んでおかしくないかな、とも。もし死んでいれば申し訳ないことこの上ないですが」
それが寂しそうな表情の所以かと納得する。
「最後の記憶ってどんなのか聞いても良いか?」
最後が最期かもしれない。
そうなると恐怖も同時に襲ってくる記憶かとは思うが、もしその記憶によってこのカティサークにしてやれることがあるならば礼にもなるのではないかとは思った。
カティサークはそっと目を瞑って、情景を思い出しているようだった。
「あれは…森で…無謀だったと分かっていたけど…斬られて………」
ウーン、とそこで言葉が止まる。
「やっぱり、辛いよな?」
申し訳ないことを尋ねたと謝ろうとすると
「いや、そうじゃないです」
「?」
口元に手を当てて、辛いとか言うよりも少し照れているようだった。
「まぁ、仕事だったんですが、森の中で。その瞬間は相棒と二人で、俺斬られたんですよね。背後からバッサリ」
ハハと笑う姿を見て、スプラスの表情が引きつる。
「剣士として、背後からバッサリなんて幾ら相手が集団でも情けないですよねぇ。幾ら万全な状態でなかったと言っても。いや、剣士というほど剣の腕はよくないですけど」
と、スプライスの表情を見て笑いを抑える。
作品名:SPLICE ~SIN<後編> 作家名:吉 朋