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SPLICE ~SIN<後編>

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呼びかけると、ハッとスプライスの目を見る。
「あ…や……」
何かを口にしようとするが言葉にならない。
「何でも…」
バッと俯くと集落の方へ走って行ってしまった。
荷物の殆どはスプライスが持っているから走るのにも支障がない。
「泣いてた?」
最後に俯く瞬間、目に涙が溜まっていた気がした。
その理由は安易に想像付く。
カティサークより付与されたという、以前この島に眠っていた時にこの島においていった力の影響だろう。
バーカンティンが「感情があると制御できないかもしれない」とつぶやいていたのを聞いている。
この集落には人の思いが残っていそうだし、それを感じ取ってしまったのだろう。
「僕しかいないんだから気にしなくていいのに」
そんなバーカンティンがちょっと可愛いと思いながらも、落ち着く時間をあげようと急ぎ過ぎない程度に早足で集落へ向かう。


バーカンティンは集落の真ん中に来て、一つ二つと深呼吸して気持ちを落ち着けると周囲の声も遠くなった。
なんとなくだが、制御は可能なようだ。
一度目に足を踏み入れた時も何かありそうだとは想像付いたが、無防備な状態でこの村の姿を見たとき色々情報が流れ込んできて驚いた。
「これで『力の一部』って、聞いて無いぞこんなの」
そう思いながらも前世の自分の行動を思い出す。
外から流れ込んでくる情報に感情を揺さぶられなかったのは、自分に感情が無かったからだ。
しかし人間社会で生きてゆくうえでの対人人格形成において、こうやって流れ込んでくる感情も含めた情報を利用していたことをも思い出す。
何所までが理性の上での行動で、何所までが無意識だったのか境界があいまいなのだが…確かに前世では感情らしい感情は殆ど無かったのだ。
死ぬまでの間に自分の中に発生したと認識した感情は『悲しみ』『憎しみ』という気持ちに、スプラスと共にいることで知った『愛情』『喜び』。あらかじめインプットされていたのはブリガンティンに対する思い…そして最終的に発生した『人間になりたい』という気持ち。
今思えばどれだって希薄だったのだろうし、何かが中途半端だった。
あの時はそれでよかったのだ、とも今になって思う。
「人間になって、スプライスと共に居たいなんて、すっごい我侭だったのにな」
今でも覚えている自分の最期に発した言葉の内容。
『生まれ変わるから、待ってろ』
「酷く傲慢だ」
全てを一度に手に入れることは不可能そうだ。


ボンヤリと集落の中心に立っていると、いつの間にか大体の情報は入ってきたらしい。
目を閉じて検索しようとすれば、黒い翼のヴィラローカの姿もチラッとでてきた。
「大丈夫?」
後ろから足音と共に心配そうなスプライスの声が聞こえる。
この声が聞こえると、全身の力が抜けるようにほっとするのが分かった。
「あぁ、大丈夫だ」
振り向くと、こちらもほっとした表情のスプラスが立っていた。
「ここ、そんなに色々ある?」
周囲をぐるっと見回す。
当然スプライスにしてみれば何も変わりが無い。
「この島にある、人のいた形跡のある場所としては少ない方だろうけどな」
体の中を駆け抜けるこの様々な情報達は体感しないと分からない。
分からなくても良かったかもな、とは正直思うがこの島にいる間好奇心を満たしてくれる役に立つとポジティブに考えようと思考を切り替える。
「人の声とか聞こえるの?」
ヴィラローカのいる家へ歩み始めたバーカンティンに問いかける。
「声…ではないかな」
それさえもどう表現すればいいかもよく分からない。
気づいたら情報は頭の中に入り込み油断すると体を駆け巡る。
「まぁ、もう大丈夫だ」
「それなら良いんだけど」
一度『大丈夫』と言い出したバーカンティンが言葉を覆すことが無いのも分かっているから素直に返すしかない。
ヴィラローカの姿を再び見るも、当たり前だが何の変わりも無かった。
「結局この人の正体は謎のままだったな」
数日前に此処に来た時のように石像の顔を覗き込む。
動いているカティサークを見た後だからか、『腹違い』というには顔立ちが似ているように思われた。
「思い返せばカティよりも謎が多い人だったのかもしれないなぁ…カティという存在と『ハーフ』っていうのもあったから隠れていたけど」
スプライスもバーカンティンの傍によってヴィラローカの顔を覗く。
改めてじっと見ると、思っていたよりも端正な顔立ちをしていたのだとため息を付いた。
これでは『石化した人間』ではなく『人間になりそうな石像』だ。

「触れてみると何か分かるかもしれませんよ」

「!」
人の気配などしなかったはずなのに、とヴィラローカの顔を覗き込んでいた二人が同時に部屋の入り口へ振り向くと見知った顔があった。
微笑むというほどではないが、優しげな表情で部屋の光景を見守っていた。
明るい茶色の髪に緑色の瞳で、大き目のパッチリした目がやさしげに細まっている。
日の光の中でその姿を見ると、ますます質量を感じた。
質量を感じる幻影。
カティサークの『精霊』と呼ばれていたうちの一人だ。
「カティサークは出てこられないのに、貴方はでてこれるのか?」
隣のスプライスを見ても同じ場所を見ていることから、スプライスにも見えているようだ。
再度『カティサーク』に視線を移して忘れかけていた事があることに気付く。
この世界のカティサークよりもスラリと背の高い姿を少し見上げるようにジッと見つめながら、最後の『カティサーク』が言っていた事を思い出す。
「『一人だけ話せるようにしておく』っていうのは貴方の事か」
「一番ではないと思うけど、大分古株らしいね。自らの意思を持って動けるモノとしては私が一番力を持っているらしい…」
そう言いながら近づいてくる。
ギシッ ギシッ
床板を踏む音がしてバーカンティンは又驚いた。
質量があるように見えるのではなくて、実際にあるらしい。
ヴィラローカの前から動かないバーカンティンたちを迂回してヴィラローカのそばに立つ。
その移動にも空気の流れを感じた。
「この人の存在についてはいろいろな説が考えられますが、一言で言えば『カティサーク』の守護者であるようです」
そっとヴィラローカの頭をなでる。
「コレも考えられる可能性のうちの一つでしかありませんが、どこかの世界でカティサークの魂に引き込まれたのではないかと考えられてます。もしくは…」
ヴィラローカの顔を覗き込む。
この『カティサーク』も顔はこの世界のカティサークと同じといっていいほどだから、その石像のヴィラローカと似ていた。
「『ヴィラローカ』という人物も『カティサーク』なのではないかという可能性もあります」
「同じ運命を持っているということか?それとも同一人物ってことか?」
「多分主に後者ですが、前者でもあるとおもいます。どれもあくまでも可能性でしかありません」
ヴィラローカの組まれた手に触れてるその手は、やはりこの世界のカティサークよりは大きいようにスプライスには見えた。
しかし、守護者とか同一人物といわれて何かがしっくり来る。
遠い昔見た夢でもそんなイメージ…とくに守護者的なイメージは持った。
それにこの世界での行動を見ても同じだ。
作品名:SPLICE ~SIN<後編> 作家名:吉 朋