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SPLICE ~SIN<後編>

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(本当に様々な人物だった。)
(思った以上すぎて頭がパンクしそうだ。)
等々。
先を出せない。
そんなスプライスと、バーカンティンの前で明度をあげてきた洞窟に再びこの世界の『カティサーク』が姿を現した。
「……いかがでしたか?」
そっと微笑んで金色の瞳をもつ目を細める。
「…思った以上だったよ」
スプライスの様子を見れば分かるだろうが、バーカンティンが答える。
「そうですか。それはよかったです」
一つうなづいた。
「バーカンティンさんのお顔を拝見するに、謎は全て解けたようですね」
バーカンティン以上にスッキリした表情でカティサークが喜ぶ。
スプライスは腑に落ちない点があるはずだと自分に言い聞かすが、整理しきれない。
「カティサーク自身は知らないことも知ったと思うが、自分では知りたいと思わないのか?」
場合によっては説明しようかと提案するがカティサークは首を横に振った。
「僕に知らない事というのは重要ではないと思いますし、必要ならば伝えてくれると思います。まだまだ時間はありそうですからのんびり行こうと思っているのです」
スプライスはこの地における『眠る』状態のシステムも、平均時間も分からない。
ただバーカンティンは200年眠り目的は一切果たせなかった。
それどころか力を切り離す力より、同化する力のほうが強く働いているそうだったから眠って起きた後はパワーアップさえしていたと言っていた気もする。
「それよりも……」
少し悲しそうな顔をする。
「そろそろ時間が迫っているようですよ」
その言葉の先は主にバーカンティン。
バーカンティンがハッと腰を浮かす。
「申し訳ありません、力の付与により制限時間を縮めてしまいましたね」
「いや、言葉よりも多くの答えを貰った。ありがとう」
言いながらスプライスも立たせて、ランタンその他の荷物を手に持つ。
「え、何?!」
立ちながらもランタン以外の荷物をバーカンティンから奪うのは忘れない。
何か急いでいるらしい事はわかったから。
「此処にあまり長くいると『のまれる』」
言いながらランタンに明かりをつけようとするが、ソレをカティサークがそっと手をさしのべて止める。
「僕が先導しましょう」
その手は質量が有るように見えて実際には幻影とおなじだが、妙に体温を感じた気がした。
「『のまれる』って、強制的に眠らされるってこと?」
部屋のようなこの場の出口へ歩いてゆくカティサークを見ながらバーカンティンにたずねる。
50年前翼人の村で世話になった、あのカティサークそのままだと思った。
奥に眠っている石像のほうが偽物のような気がしてならない。
「そういうことだ…」
スプライスが奥に視線を向けて名残惜しそうに石化したカティサークのを見つめるが、バーカンティンも感化されたように石像を見つめた。
この石像はこの先もずっと此処にあって、しかも石化から解けることなく風化を待つのだろう。
「さぁ行きますよ」
精神体のカティサークの体を中心に光が広がる。
一歩二歩と歩を進めると石像は闇に解けていった。


心持急ぎ足で、来た道を戻ってゆく。
途中に人影がみえると
「この人たちもどこかに魂を飛ばしているのかな」
とスプライスは思った。
カティサークとバーカンティンの二人は特にそれらに気を配ることも無くただ道を歩いてゆく。
「……」
カティサークを中心とした明かりはランタンを持つよりも広くて、明るさもあって歩きやすい。
スプライスとしては見たくないものまで見えるのは少々気になったが、二人の様子から察するにそれどころではないのだろうとも予想が付く。
予想も付くが…
「ねぇ、カティ」
声くらいかけても大丈夫だろうと背に声をかけてみる。
「はい、なんでしょうか?」
首だけ振り向いて歩は緩めない。
バーカンティンもスプライスのほうを横目で見た。
「くだらないことなんだけど、カティは歩く必要あるの?」
当たり前だが足音は当然無く、足元に石が転がっていたところで躓くことも無い。
バーカンティンなどは時々凹凸に足を取られそうになることもあるのに。
「人間としての僕自身は自分自身のみでの移動手段としては徒歩しか知らないので、自然と歩いてしまうのですが…イマジネーションですかね?」
要するに何も考えずに移動しようとすると、精神体であっても徒歩移動してしまうということだろう。
「俺は飛べたから飛んだけどな」
バーカンティンが横からポツリと。
「飛べなかったら飛ばなかった?」
「特別飛ぼうと思うようなことが無い限りは飛ばなかったと思うな」
「僕も同じですね」
「ふぅん……」
実体験者がそういうのだろうからそう言うモノなのだろう。
自分だったらどうするかと考えて…やはり歩くだろうとも思う…
海の中を泳ぐように飛ぶ、とは思いつかないだろうと感じる。

「……おい、スプライス?!」
「……え?」
名を呼ばれて視界が狭くなりかけていたことに気づいた。
ハッと顔を上げると、二人が心配そうに見ている。
全然似ていないのに、どこか似ている気がした。
「バーカンティンさんよりも先にスプライスさんに影響が出始めたみたいですね。急ぎましょう」
とカティサークが告げる。
「あと少しだろうから走るぞ。手握っててやるから離すなよ」
「……わかった」
思考がぼんやりしてきているような気がするのは、どうやら自分が『眠り』につかまりそうなせいらしいとだけ分かったがそれ以上は思考が働かなかった。
「面倒かけるな」
前を行くカティサークに声をかける。
その声は気持ち大きめだった。
「いえ、僕の方こそ思い至らなくて申し訳ないです」
こちらの声も大きめだった。
「カティサークはこの洞窟から出られるのか?」
スプライスの手を引きながらバーカンティンが投げかける。
今まで喋りかけていなかったのに急にどうしたのだろうかとスプライスは思うが、カティサークも普通に返す。
「出ることは可能ですが、そんなに長時間は無理ですね。何年もは出ることは出来ないです」
そこで一旦止めるが、再び何を思ったのか話を再会する。
「一番長く出たのは三月ほどです。この島から出ましたが帰ってきたあとは洞窟に数年篭っていました。ほかは時々島の中を散策するくらいです。幾度か祭りも見ました」
カティサークの話を聞きながら、急ぎ足で歩くが頭が時々ボンヤリする…

ガクン

と思ったところで引かれていた手が急に崩れ落ちた。
「?!」
引かれていることは分かっていたが、そこでバーカンティンの様子がどうなっているのかわかっていなかったことを知った。
「大丈夫ですか?」
心配そうに歩を止めるカティサーク。
「だ…大丈夫…」
眠くなりかける頭を振って
「ホントに?」
と隣にかがむと、息を切らせていつの間にかボロボロになりつつあるバーカンティンがいた。
「後ちょっとです、がんばってください」
それしかいえないカティサークは心苦しそうだった。
「後ちょっとなら、僕が…!」
「?」
眠気のある頭を再度振って、大きく深呼吸する。
視界の端に殆ど風化した見覚えのある石像があった。
本当に、あと少しだ。
荷物を背負いなおして、バーカンティンをヒョイと抱き上げた。
作品名:SPLICE ~SIN<後編> 作家名:吉 朋