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SPLICE ~SIN<後編>

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次にカティサークが出てくるであろう場所に視線を向けたままでつぶやく。
バーカンティンの答えが意外にも確り帰ってきたのが驚きだった。
「目が、どこか悲しそうだった」
「…そう」
スプライスも再び視線を前方に転じる。



「あれ?」
次に現れたのは…ココに眠るカティサーク、そのものの姿をしているように見える青年だった。
立ち姿も同じだが、どこかが違う。
「えぇと…」
なんと尋ねようかと迷う。
もし『この世界の』カティサークならば間抜けだし、違えばなんといえばよいのか。
「はじめまして」
スプライスの表情にさえ表れた明らかな迷いにあちらから声をかけてきた。
「はじめまして…」
言われてスプライスがそう返すが、それもおかしかったらしい。
クスクスと笑い出した。
「ホントは僕の方からはキミの夢の中に接触した事があるんだよ。そっちの人も君の夢の中で見た」
バーカンティンを示す。
「とても綺麗な翼だったね」
「どうもありがとう」
珍しくにっこりと答えるが、スプライスにはそれが何かを隠す為の表情に見えた。
カティサークもそれは分かったらしく…少し意地の悪い笑みも一瞬走らせる。
「この世界で暮らす中で、この世界自体というか、『神』に一番近い感じがしたのがキミだったからちょっと接触させてもらったのは僕なんだ」
「……いたずら小僧っぽいもんな」
ポツリとバーカンティン。
「好奇心が旺盛と言って欲しいナ。まぁ、最初の最初に説明した『どこかの世界の神を作る』為に沢山の世界を経験しているわけなんだからその世界の構成情報につながる事を知りたいと思っても不思議ではないでしょう?」
「それも『世界と他者との関係』?」
「ソレソレ」
「…お前はいろいろ知っていそうだな?」
態度の違い故か珍しく『カティサーク』に対して「お前」とバーカンティンが呼びかけた。
「どうだろう?さっきの黒髪君と同じくらいかな。もっと色々知っているヤツも何人かいるよ。ただ、この『カティサーク』を補佐する上で自らの意思で色々行動を行う事ができるのは僕たちみたいにソコソコ以上の情報量も持つ者かな。情報量が無いものは、有る者の指令で動いて、動いているうちに情報蓄積していくって循環になっているよ」
「でもねぇ…」と続ける。
「後一人か二人で終わりかな」
ちょっと残念そうな表情を作る。
スプライスたちが得たい情報を全ては得ていない事を分かっているのだろう。
「とりあえず、僕が思うのは」
とスプライスではなくバーカンティンへ向く。
「覚悟さえ決めれば望むものは手に入ると思う。けれどその覚悟をするかどうかについては思いっきり悩んだ方がいいってことかな。この『カティサーク』がこうやって眠りにつけたのは本当に幸運な環境があったからだし。この世界で生きてこうという未練が本当に薄かった。僕自身に置き換えればもっと迷ったと思うし他の方法ももっと探したと思う。今の状態に後悔していないだろうし、してほしくも無い。けれど未来もしっかり考えて欲しい」
バーカンティンは
「そうだな」
と小さく答えただけだった。
少し背を小さく丸めた気がしてスプライスは思わず背を見るが、当然翼は無く翼が現れるような兆候も形跡も無い。



最後かもしれない『カティサーク』は既知の者だった。
一番最初に現れた『カティサーク』だ。
多分。
「さっき出てきたよね?」
念の為に確かめると一つうなづいた。
「貴方方が知りたい事は大体分かったんじゃないか?」
「そうだな」
バーカンティンが即答する。
「何かあれば僕に分かる範囲でなら答えるが、分からないものは答えられない」
「でも全員の中でも知識の有る方なんだろう?」
「知識というか…単なる情報というか。僕自身に役立つものではないな」
それはそうか、と二人とも納得する。
今までの話を総合すれば、それぞれ自分の世界で生きている時間を切り取られて此処にいるだけで、自分の世界に帰れば自分の世界の秩序の中で生きてゆく。この世界の秩序や情報は不要だ。
「俺たちが知りたかったのは『どうして』『どうやって』此処に来て『何故』この現状なのかという点だからな…」
バーカンティンのまとめを聞いて、ふと気付いたらしい。
「『どうやって』か…陸路は大体歩いたが、海上をどうやって渡ったのか言われてないんじゃないか?」
「船でしょ?」
普通ならね、とスプライスが答える。
スプライス自身は普通ではないので泳ぐ事もあるが…
バーカンティンが「そういうことじゃないだろ」と冷めた視線を投げかけてきて、「そうですね」と謝った。
「船は『エ・バッハル』だった。迎えに来たようだった」
「『エ・バッハル』…!」
『エ・バッハル』は船の名前なのだが、大分特殊な船で、なおかつスプライスとバーカンティンの二人に縁深い船だった。
そういう船だったはずなのだが…
「今回俺たちの前には現れなかったぞ!」
来て欲しいと思っていたのに。

「あ、そうだ。消える前に一つ教えて欲しいんだけど」
そろそろ時間だと感じてとっさにスプライスが声を上げる。
「『大切な人』ってそれぞれ一人なの?」
さっき別の『カティサーク』がこの『カティサーク』が表した大切な人は双子の姉だといっていたがちょっとそれは寂しい気もしたのだ。
スプライス自身には兄弟も親もいないが(ト・スクーナなど親族はいるが)、バーカンティンの立場を思えばブリガンティンが大切な人、という事になってしまう。
それとも、もっと特別な関係があるのだろうか。
そんなスプライスの疑問に答えるように『カティサーク』が左手をスッと横に動かすと、『姉』ではない別の人物が姿を現した。
バーカンティンより濃い金髪をした垂れ目の優しげな美女だった。
ウェーブがかった腰近くまである髪で茶色のロングのワンピースを着てニッコリ立っている。
身長はカティサークと同じくらいだろうか…
そんな女性に対して一回転するようにジェスチャーすると、女性はスカートを翻してくるりと回り。
再び正面を向こうかという瞬間、姿を変えた。
顔立ちは体つきは全く同じなのだが、短い髪に少ししゃれても見える男性モノの服…スプライスとバーカンティンに視線を向けると、一瞬で真紅に染まって消えた。
「…!」
その消え方が血の色のように見えて、スプライスは背を駆け抜けた恐怖に似た冷たいものに身をすくませる。
「『姉』は俺を形成する上で外せない人物。今のが『大切な人』…なんだろうな。自分の世界にいるときは特別意識していた訳ではないが、こうなってみて具現化できることを考えるとそうだったんだろう」
「一人じゃないってことか…」
ちょっとほっとする。
「50年以上も前だから覚えて無いだろうが、『夢』でも一度に複数人出てきたこと有るぞ…」
ちょっと呆れ気味に笑いかけて
「あぁ」
と思い出したように声を上げる。
「この後も、ここのカティサーク以外に一人だけ話せるようにしておく。僕以上に何でも知っている奴だ。ただ、今はもうお仕舞いだ」
そう言って姿を消した。



一呼吸。

二呼吸。

三呼吸。


もう誰も姿を現さない。
その代わり、洞窟の明るさが僅かずつ落ちてくる。
「……なんか……」
(沢山の『カティサーク』が出てきた。)
作品名:SPLICE ~SIN<後編> 作家名:吉 朋