小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

マル目線(後編)]残念王子とおとぎの世界の美女たち

INDEX|4ページ/11ページ|

次のページ前のページ
 

おにぎり


ちょうどお昼に、王子と私は海辺の別邸に着いた。

「お腹空いたな~。」

リンちゃんを厩舎へ繋ぎながら、王子が呟く。

「軽食を用意してもらっていますので、それで我慢してください。」

王子はのんびり歩きながら、別邸の玄関へ向かう。

「野菜はいらないよ。」

「ビタミン摂らなきゃ、唯一の取り柄の美貌がすぐに老化しますよ。」

「くだものでいいじゃん。」

「じゃ、プルーンをご用意しますね。」

「なんでプルーン!?」

「果物は、果糖とビタミンがほとんどですが、プルーンなら鉄分も摂れますので。キウイもカルシウムが入ってますから、足しておきますね。」

「カルシウムもういらないよ!背、高いし!!鉄分も他で摂ってるから大丈夫!!っていうか、わざとでしょ!」

言い合いながら廊下を歩いていると、別邸の侍従たちがくすくす笑いながら頭を下げる。

「お食事は、こちらに用意してます。」

私が扉を開けると、そこには人魚姫がいた。

人魚姫の世話に残しておいた女官が、慌てて頭を下げる。

王子の表情がスッと強ばるのが見えた。

「姫、また王子は後程ご挨拶に伺いますので、とりあえずお部屋に…。」

言い終わらないうちに人魚姫は王子に走り寄り、抱きつこうとした。

私は瞬時に王子の前に立ちふさがり、人魚姫を抱き止めた。

人魚姫が私を睨んで、左手をふりあげる。

その手首を王子が掴んだ。

そしてニッコリと微笑む。

「とりあえず、昼食を食べさせてくれませんか?ご挨拶はまた後程、ゆっくり。」

女官が人魚姫に訳すと、人魚姫は私を睨みながら離れた。

そしてこちらをふり返りながら、女官に促され部屋を出て行った。

王子は盛大なため息を吐くと、荒々しく椅子へ腰かけた。

「私の確認不足で、申し訳ありません。」

頭を下げると、王子がテーブルに用意されていたスコーンやベーコンエッグなどをチラッと見て目をそらした。

「なんか…食欲失せた…。」

私は王子の好きなジャスミン茶を淹れ、王子の前に置く。

「ちょっと目新しい物になりますが、ご用意しましょうか?」

王子はジャスミン茶を飲みながら、私を見上げた。

私はそれを肯定と受け取って、頭を下げ、その場から消えた。

厨房で手早く作ると、再び王子のいる部屋へと戻る。

王子の目の前にお皿を置くと、王子は身を乗り出して、そのお皿に乗っている物をまじまじと見つめた。

「なに?これ…。」

「おにぎりです。私の故郷の軽食です。」

「おにぎり…。」

王子の瞳が、キラキラと輝く。

「ごはんの上に色んな具を乗せて、包み込むように握るだけのシンプルな物です。本当は海苔という海草を干して作った物で巻くと、手を汚さずに手で持って食べれるんですが、この国にはないのでフォークで召し上がってください。」

王子は、フォークでおにぎりを半分に割る。

「あっ、サーモンが入ってる!」

サーモン好きの王子は、一気にテンションが上がった。

「それは、故郷では塩鮭と言います。」

「美味しい!なにこれ~!ごはんってこんなに美味しかったっけ!?」

言いながら、あっという間にひとつ完食する。

「次は…これ、なに?」

二つ目のおにぎりを半分に割って、その具に首を傾げる。

「それはおかかです。鰹節に醤油で味付けをして軽く胡麻も加えて合わせてみました。」

「おかか…。」

王子は一口食べると、満面の笑顔で私を見た。

「めっちゃおいしいね!!マルの国、最高だな!!」

そしてあっという間に二つのおにぎりを完食し、王子はすっかりご機嫌になった。

「そういえば、マルもお腹空いてるでしょ?僕の残りで悪いけど、これ食べない?」

王子は言いながら、スコーンやベーコンエッグのお皿を引き寄せる。

私は王子の向かい側に座ると、手を合わせた。

「残すと厨房の方にも悪いので、ありがたく頂きます。」

そしてモグモグと食べる私を、王子は肘をついて顎を乗せ眺めながら、ジャスミン茶を飲む。

「マルと食事するの、初めてだな。」

嬉しそうに呟いた王子は、侍従におかわりを注いでもらった。

「僕、いっつもひとりで食べてるからさ、たまに一緒に食べようよ。」

「お断りします。」

(食事なんか一緒にし始めたら、親しくなりすぎるじゃん。)

「えー、なんでだよ~!主の誘いを断る従者って、どうなの?」

(勘違いしそうになるから、一定の距離は保ちたいんです!)

「そもそも、主と一緒に食事をする従者なんていません。早く一緒に食事をしてくれる女性を見つけることですね。」

私の言葉に王子は頬を膨らませて、そっぽを向いてしまった。

「女の人は、次から次に要求が尽きないから…めんどくさい。」

(…王子。)

今回の人魚姫が相当堪えているのか、滅多に見ることのなかった憂鬱な表情をここ最近、王子はよく見せるようになった。

「…ごちそうさまでした。」

私が手を合わせると、王子の表情がとたんに輝く。

「なに、それ。初めてみた。マルの国の風習?」

表情がコロコロ変わって、面白い。

こういう表情豊かなところも、王子の魅力だ。

「そうです。私の国では、食事の時、食べ物の命とそれを育てた人、それを料理してくれた人、この食事をできる環境などあらゆるものに感謝をして食べます。だから食事前に『いただきます』食事後に『ごちそうさま』と手を合わせて挨拶をするんですよ。」

王子は最後のジャスミン茶を飲み干すと、私の真似をして手を合わせた。

「ごちそうさま。」

そして大輪の花が開くように、華やかに笑う。

「さて、いきますか!」

王子は自らに気合いを入れるかのように元気に言うと、優雅な所作で椅子から立ち上がった。

「今回、通訳は女官ができますので、私は陰で護衛しますね。」

「えっ?」

王子が驚いて振り向いた時には、私は天井裏へ移動していた。

王子は、私がいたところをジッと見つめている。

何を思っているのかわからないけれど、しばらくそうやって佇むと、ふりきるかのように部屋を出て行った。

(たぶん、私がいないほうがいい。)

さきほどの人魚姫の様子で、私はそう感じ取っていた。

私は天井裏から、王子のつむじを見下ろしながら、そっと傍に付き従う。

王子はまっすぐに、人魚姫の部屋へ向かった。

扉の前の侍従が、敬礼する。

そして王子のかわりにノックをして、扉を開けた。

扉が開くと同時に、人魚姫が飛び出してくる。

王子は抱きつかれる前に、人魚姫の肩を掴んで阻止すると、そのまま椅子へ誘った。

頭を下げる女官を一瞥した王子は、人魚姫を椅子に座らせると、その前に跪く。

「姫、本日はあなたの歓迎パーティーをご用意致しました。我が国の貴族の子息や、令嬢たちを集めて華やかに致しますので、どうぞお楽しみください。」

人魚姫は、嬉しそうに頷いた。

「では、私は会場の確認などして参りますので、失礼致します。またお時間になりましたら、お迎えに上がりますので、もうしばらくお待ちください。」

そして一礼すると、身を翻して、人魚姫の部屋を出ようとした。

その背中に、人魚姫が抱きつこうとする。