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優しさに感染した男
優しさに感染した男
novelistID. 61920
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赤いソファと木曜日

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「まあ、それを知ってる人は壮介先輩を疑っても無理はないね。」
「とにかく、」加蓮が廊下で足を止めて振り返る。
「田島の講義が終わったら即行、情報収集ね。その、優佳さんとか、その友達とか。」
「はいはい。」
「何よ。やる気あるの、」
「ある。あるよ。」
「もう、壮介先輩が動くとまた変な噂が立つし、佐藤先輩は壮介先輩の友達だって顔が割れてるから、私たちしかいないのよ。分かってる?」
「だから、」
「なに、」
「あ。」
理沙が廊下の群衆を指さした。
「あの人、綾子さんじゃない?」
二人は壮介から優佳の情報をある程度は聞いていた。その話の中に出てきた優佳の親友、工藤綾子がそこにいた。
「ちょっと行ってくる。」
加蓮が綾子の元へと進む。
「ちょっと。」理沙も後に続いた。
「何よ。」
「何よじゃないでしょう。いきなり話しかけるのは怪しいわよ。もっと、考えてから、」
「すみません、」
理沙が思うよりも二人の歩速は早かった。
「あ、はい。」
綾子は少し戸惑いながらも加蓮に応じた。そこはかとなく疲れた表情をしていた。
「すいません。突然声をかけてしまって。」
理沙がすかさずフォローした。もし自分が男だったら完全にナンパの常套句だと理沙は思った。
「いえ、大丈夫です。それで、どちら様ですか?」
「えっと・・・」
何と言えばいいのだろうか。理沙の脳内でいくつもの言葉が泳いだ。
「私は、壮介先輩と同じ天文学サークルに所属してます、一年の加蓮といいます。」
「ああ、壮介君の・・・加蓮さん・・・ね。」
今度はハッキリと綾子の顔が歪んで見えた。
一瞬にして重苦しい空気が辺りを包む。
きっと離婚届けに押印をする時もこういう雰囲気になるのだろうと理沙は思った。
「あの、優佳さんはご存知ですよね。」
理沙も詰め寄った。
一瞬、綾子はたじろぐ。
「優佳・・・ええそうだけど。」
「それで・・・」
「・・・ごめんなさい。私、講義があるから。」
綾子は二人に背を向けて歩き出した。
「待ってください。」
加蓮に逃がす気はない。
「・・・」
綾子も止まらない。
「加蓮!」
綾子の腕を掴もうとした加蓮を理沙は止めた。
綾子は逃げるように人混みに消えた。
「ごめん・・・私分からなくて、こんなの、だって、でも・・・私も・・・」
加蓮は下を向きブツブツと呟くばかりだった。
「加蓮・・・行こう。」
ゾンビのようにフラフラな加蓮を引っ張りながら理沙は首をかしげる。
何かおかしい。



「それでその後、優佳さん本人を探したんですけど、見つからなくて・・・」
「そうか。そもそも俺は会ったこともないしな。顔も分からない。」
「壮介先輩も嫌になって全部消したって言ってましたもんね。写真。」
「あいつもなんつーか、感情に振り回されてんなあ。」
やれやれと頭を掻く佐藤の姿が電話越しに見える。
「その後、同級生の人達にも話を聞いて回ったんですけど、みんな最近見てないとしか・・・」
「そうなのか。」
電話越しの佐藤は少し疲れた声になった。
「何か、あったんですか。」
「え、」
「佐藤さんですよ。何かあったんですか?なんか疲れてませんか。」
「ああ、俺も個人的に人を探していたから。」
名前を出さないという事はあまり話したくないのだろうか。しかし理沙はそれが誰なのか気になった。
「誰を探しているんですか。」
「ああ、塩見ってやつだよ。塩見真里。理沙は知らないとは思うけど。」
意外にも佐藤はすぐ教えてくれた。
「その、しおみ、さんって人は、」
「俺と同級生で、天文学サークルに入ってたんだけど最近姿が見えなくてな。」
「やめたんじゃないですか、大学。それで実家に帰ったとか。」
「うーん、でもこの前バッタリ会ったからな。何とも言えない。」
「それなら、」
「いや、会ったというか、何というか、」
電話越しに佐藤は唸った。
「はあ、よくわからないですね。」
「まあもしどこかで会ったらよろしく言っといてくれよ。」
佐藤は笑いながら言った。



理沙は電話を切り、腕時計を見た。バスの時間には間に合いそうだ。
バス停にいつもよりも早く到着すると先客がいた。
同じ大学生だろうか。小柄な女性が音楽プレイヤーを握りながらスッと空を見つめていた。
女性は真白いブラウスに黒のジーンズ姿だった。今風、という感じだろう。目鼻立ちが整っていて、昔よくテレビに出ていたアイドルに似ていた。名前は思い出せなかった。
バス停には二人しかいない。バスが来るまではまだかなりの時間がある。
ふと理沙は隣に立っている女性に目を向けた。なんとなくだった。
「あら、こんにちは。」
その女性も理沙を見ていた。
「こんにちは。」
理沙が返すと女性は理沙に近づく。
「あなた、もしかしてⅩ大学の学生さんかしら。」
「ええ、そうですけど、何か、」
「いえ、私もそうなのよ。それより、何か悩んでる、あなた。」
ズイっと女性は理沙に詰めよる。
「え、何ですか。」
「顔に書いてるわよ。」
そんな顔をしていただろうか。
「悩んでる、んですかね。」
理沙というよりは、加蓮、いや、当事者は壮介だろう。
「悩んでいるというか、あなた、少し考え事をしている風だったから。」
「まあ、最近知り合いのトラブル解決の手伝いをしてるんですけど、中々糸口が見えなくて。」
「あら、あらあら。もし私でよかったらお話、聞かせてくれないかしら。」
「それはありがたいです。ですけど、そういえばあなた、どちら様ですか。」
「あら、」
知らないの?と言わんばかりの顔だった。
「塩見真里よ。目玉焼きにかける塩を見る、真の里。」
「シオミマリ?」
目玉焼きにかける塩を見る、真の里。塩、見、真、里、か。塩見真里。塩見真里。
「ああ、」
「どうしたの、ええと、」
「私は理沙っていいます。」
「どうしたの、ええとリサさん。もう、りささんって、『さ』が二回も続くから言いにくいわ。どうしたの、リサ。」
「塩見さんって、佐藤って人知っていますか。天文学サークルの。」
塩見は一瞬微笑んだ。
「ええ知ってるわよ。そんなことより、さっきの話を聞かせて頂戴。」
「あ、はい。」
佐藤と何かあったのだろうか。
「先輩がストーカー疑惑をかけられて、それを解決しようとしてるんですよ。それで、その当事者を探したんですけど、まったく糸口が見えなくて。」
「ストーカーってした側が一方的に攻められるけど私はそうは思わないわ。」
「はあ、」
理沙は曖昧な相槌を打つしかなかった。趣旨が見えてこない。
「ええそうよ。勿論した側が悪いわ。でもね、される側にもされるような理由があるのよ。自覚していても、していなくても、善かれ悪かれ。」
「つまり、どういうことですか。」
「ああ、ごめんなさい。ストーカーと聞いてちょっと自分の意見を言いたくなっただけよ。お喋りが好きなのよ、私。」
なんだ、と理沙は肩を落とした。
「どれくらいその人を探しているのかしら。」
「どれくらい・・・細かくは覚えていませんが、講義が終わって暇な時間はほとんど探してます。」
「あらそんなに。それでも見つからないのね。」
「はい。その人の知り合いに聞いても、避けられてしまって。」
「あなた、おもしろいわね。」
「え。」