セカンド・パートナー
最終話
二十年の年月が流れた。
佐知子は定年を迎えた孝と穏やかな日々を送っていた。一人息子の亮太は結婚し、二児の父親になっていた。すぐ近くに居を構えたので、孫たちは、毎日のように遊びにやってくる。佐知子はその面倒をみることに追われたが、孝にとっては、その孫たちの訪問が何よりの楽しみのようだった。
そして、佐知子と沙織は以前ほどではないが、今でもたまに顔を合わせていた。今日はその日で、孫たちと遊ぶ孝を家に残し、佐知子は待ち合わせ場所に向かった。
「久しぶりね、変わりない? 相変わらず、ご主人と写真旅行を楽しんでいるみたいね。すてきな年賀状、いつも楽しみにしているのよ」
「ありがとう、うれしいわ。ええ、こうして穏やかな日々を送れるのも、今にして思えば、沙織のおかげよね」
「どうして?」
「あの頃、沙織のセカンドパートナーという言葉にいろいろ振り回されたじゃない? でも、そのおかげで私たち夫婦のぎくしゃくした関係が、修復できたわけだから」
「そういえば、佐知子はあの頃、ご主人に不満を持っていたのよね……」
「ええ、いろいろなことが重なって、一時はどうなるかと思ったわ」
「そして、あの後、ふたりで旅行に行ったのよね?」
「ええ、無理やり主人を連れ出したの。渋々ついてきた主人だったけど、ふたりで夕陽を見つめていたら、あまりの美しさに写真に撮りたいと言いだして」
「ご主人は学生時代写真部だった……」
「そう、それで旅先だというのに、翌日には二人でカメラを買って、私は主人に弟子入り」
「そうそう、その話、前にも聞いたわね。でも、本当によかったわね、佐知子。でも、あなたはすごいわ、共通の趣味を得るためにご主人に合わせようだなんて」
「確かに最初は藁にもすがる思いで、ちょっと無理をしていたかもしれない。でもね、私自身だんだん面白くなってきて、本当に生きがいになってきたのよ。今では、被写体はすっかり孫たちになってしまったけどね」
「それは幸せそうね。ステキなアルバムが出来そうじゃない」
「ええ、孫の結婚の時に持たせてあげようとがんばっているわ。それにね、あれから主人が私に気を使ってくれるようなったの。この前だって映画に行こうって、それも、私が好きな恋愛映画なのよ」
「そういうものなのね、一方が歩み寄ると、相手も答えてくれるということね。そんな話の後で言いにくくなっちゃたけど、実は私、去年バツイチになったの」
作品名:セカンド・パートナー 作家名:鏡湖