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セカンド・パートナー

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「ええ!!」
「ほら見たことかって思ったでしょう?」
「まさか……でもどうしたの? やっぱり彼のせい?」
「去年、主人が定年になったでしょ。毎日顔を突き合わせるのが、思いのほかしんどくてね。とにかく慣れるまでだと思って我慢したのよ。でも、朝起きて、今日も一日主人が家に居ると思うだけで頭痛がするし、息が詰まるようでもう耐えられなくなってきたの。このままでは、体がもたないって、限界を感じちゃってね……」
「どうしてかしら? 仕事漬けのご主人がやっと解放されて、家に戻って来てくれたというのにね」
「佐知子、あなたは本当にいい奥さんね、ちゃんと夫の帰る場所を作ってあげてたんだから。世間では、仕事人間の夫が家に戻ってももう居場所はない、そんな場合が多いものよ」
「そうかしら、ふたりで旅行を楽しむとか、美味しいものを食べに行くとか、いろいろあるじゃない? ペットを飼うなんていうのも、共通の話題ができていいんじゃないかしら」
「もうそんな段階ではなかったのよ。気づいたら、もういっしょにいることが苦痛でしかなかったのだから」
「彼のことは本当に関係ないの?」
「ないわ、別れたいと言ったら、あっさりと了解してくれたのよ。きっと主人も別れたかったのよ。だから、二人の問題なのよ」
「そんなことあり得ないと思うな。何の揉め事もなく、それでいきなり体調が悪いことを理由に、妻から別れてほしいと言われて、そうしよう、なんて言う夫はいないわ。きっと彼のことに気づいていたのよ」
「彼のことは気づいていないと思うけど、私の心が彼に行ってしまったという意味では、無関係ではないかもしれないわね。
 彼に心が満たされ、主人に優しくしてきたつもりだけど、うわべだけの優しさなんてなんの意味もなかったんだわ。そもそも、彼の力を借りなければ主人に優しくできないという時点でおかしな話よね。だから主人の心も私から離れていって当然で、別れるべくして別れたのよ、私たちは」
「長い年月をいっしょに過ごして来たのに残念よね、なんとかならなかったのかしらね……」
「ケンカすることもないほど冷め切ってしまったのだから仕方ないわ。定年て、夫婦にとって踏絵みたいなものね。問題を抱えている夫婦はそれを乗り越えられないのよ。定年離婚とでも言うのかな。
 あの頃、佐知子たちは関係の修復に向かい、私たち夫婦は破局へと進んでいた――そして、迎えた結果なのよ」
「そうかなあ……それで彼には話したのよね? もちろん」
「それがね、結論から先に言うと、実は今、私彼と暮らしているの」
「ええ!! 何、その展開!」
「電話やメールのいつものやり取りの中で、私は離婚したことを彼には話さなかったわ、本当よ。だって、今までの関係が変わってしまうようで怖かったから」
「そうね、今まで通りとはいかなくなるかもしれないわね」
「ところがね、久しぶりに会った時、いきなり、今度旅行に行かないか?って彼の方からって誘ってきたの」
「旅行に?」
「そう、そんなこと今までなかったし、関係を持たないという私たちの決め事の根幹に関わることでしょう?」
「沙織の様子で何かを察したんじゃない?」
「それもあったかもしれない。でも、驚くことに実は彼も離婚していたのよ」
「ホントに?!」
「ええ、それも、状況まで、私のところと全く同じ。
 不動産屋の店を息子に任せて家に居るようになったら、夫婦の会話もなくて、奥さんから別れてほしいと言われたそうよ」
「そんなことってあるんだ……」
「私たちはお互いに形だけの夫婦になってしまっていたんだわ。まさかこんなのことになるとはね……
 いつか、互いに寿命で相手を失って、ひとりになったらその時は、って考えたことはあったけど、まさか離婚していっしょに暮らすようになるとは思ってもいなかったわ。
 こうなるのだったら、最初から離婚するべきだったのではないかとも思うのよね。そうすれば、お互いの相手にももっと他の人生があったかもしれないし。セカンドだとか、プラトニックだとか言っていないで、自分の気持ちに素直に従っておけばよかったとね」
「まあ、それはそれで大変だったと思うわよ、その頃はまだ、未成年の子どもだっていたわけだし」
「そうね、そうかもしれない。あの頃はまだここまで冷え切っていなかったから、こんなにすんなりとはいかずに、大変だったかもね。そういう意味では、今までの時間も無駄ではなかったということかしら」
「もう過ぎたことなのだから、そう思うしかないんじゃない?」
「私ね、今にして思うの、パートナーにセカンドもファーストもないって。パートナーは唯一無二、オンリーなんだわ」
「そうね、でも、沙織から初めてセカンドパートナーという言葉を聞いた時、衝撃だったわ。世の中にはいろいろな関係が存在するんだなあって」
「まあね、同じ言葉であってもケースバイケースで、決して一括りには出来ないと思けどね」
「ところで、再婚するんでしょう?」
「いいえ、そのつもりはないわ。もう結婚という形に捉われたくないし、する必要もないから。
 良きパートナーであればそれで充分」
 
 
 佐知子と沙織、かつての似た者同士は、長い年月の末、全く違うふたりになっていた。そして、生き方とリンクするようにその容姿までもが対照的になっていた。
 少しふっくらして柔和な祖母の雰囲気が漂う佐知子と、年齢より若く見え、颯爽と人生を歩む沙織。どちらが幸せ、どちらが正解なんて誰にも決められない。人はただ、自分が選んだ人生を歩いていくしかないのだから。
 ふたりは再会を約束し、笑顔で、それぞれの人が待つわが家へと帰って行った。


               完
作品名:セカンド・パートナー 作家名:鏡湖