赤襟の清ちゃんと、三毛猫のたま 36話~40話
「すんまへんなぁ。
小春は野暮用で、本日は来られまへん。
代わりにあたしが、この子達の面倒を仰せつかってまいりました」
「いやいや。市さんに謝ってもらったのでは、こちらが恐縮してしまいます。
小春が酒蔵へ顔を出さないのはいつものことです。
気にせんといてください。
今日は、素晴らしい芸を見せてくれたたまと、清子へのご褒美です。
と言っても、まだ15歳の清子に、酒蔵見物などの興味はないか・・・・
おい。娘の恭子を呼んでくれ。
たまと清子は、喜多方の町の探索と、美味しいラーメンのほうがいいだろう。
娘に案内させるから、ゆっくり町を歩いてくるといい。
市さんは、やっぱり搾りたての純米酒のほうがいいでしょうなぁ。
今年も良いカスモチ原酒※が出来たので、早速、試飲といきますか」
(へぇぇ・・・喜多方の小原庄助さんには、娘がいるのか。)
どんな娘さんだろう、と期待がわいてくる。
清子の耳に、遠くから軽快に石畳を蹴る、カラコロと鳴る下駄の音が
聞こえてきた。
※カスモチ原酒とは
厳選された会津米と、霊峰飯豊山の雪解け水からうまれる伏流水を用い、
身も凍る厳寒期に仕込まれる酒のこと。
ゆっくり、気長に、じわりじわりと発酵させていく。
晩春の頃、初めて出荷される。
酒を仕込んだモロミを、カスと言う。
モチは、長く持たせるという意味で、寒造り低温長期発酵が最大の特徴。
口あたりはきわめて豊潤。
こうじを多目に加えた天然の甘い酒で、創業200年の伝統の醸法を厳格に守り、
今日に受け継がれてきた名品。
(38)へ、つづく
作品名:赤襟の清ちゃんと、三毛猫のたま 36話~40話 作家名:落合順平