遅くない、スタートライン第2部 第5話 8//27更新
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車の中で栄養補給もさせた。美裕は俺にも焼き菓子をラッピングしてくれていた。それを食べさせて、三ちゃんが買ってくれたカフェオレ飲ませた。人間…胃袋の中にモノ入れりゃ気持ちも落ち着くんだって、美裕も見て思ったわ。俺…
「そんなカッコ良かったん?俺」俺は美裕の手にティッシュを渡してやった。
美裕はまた顔を赤くして、頭コクコクした。言葉にしたらアンタまた倒れられたら困るからな。俺は頭なでなでしてやった。
美裕が歩ける状態になってから、結婚式関係の用をこなした。ブライダルサロンの最終確認と当日のウェディングドレスとカラードレスと俺のタキシード2着の確認だけだ。前日に美裕宅までスタッフが届けてくれる手配になっている。ブーケもホテルの生花店でオーダーしてるので、当日の朝に持ってきてくれる。これでほぼ終わったな!
美裕もチェックシートで確認して、ウェディングケーキと焼き菓子のサンプル写真をブライダルサロンのスタッフに見せていた。ウェディングケーキの試食はないが、焼き菓子はサンプルを持ってきていた。スタッフは美裕の作ったマカロンとハーフサイズのフルーツロールケーキを喜んで食べていた。その場で食うなよ!俺の大学時代のダチスタッフが率先して「頂いていい?」とフルーツロールケーキを指さしたもん。美裕は笑顔でうなづいた。
翌日から美裕の引越の準備をした。美裕の部屋に入った俺は驚いた。荷物があんまりなくてさ!2階に上がってくる足音が聞こえた。美裕か?
「美裕ぉ…マジか?この荷物」
「うん。だって何にも要らないもん!新居はもう住める状態だし、服と生活雑貨だけだよ!書籍は数回に分けて持って行ったしね」
「そりゃそうだけど、俺…気が抜けた。大荷物かと思ってた!ラックとかデスクも持っていくと思っていたし」
カフェがオープンするまでは美裕は1階で寝起きしていたが、今は2階で寝ている。それも折りたたみベッドで!あぁ…だから俺が泊った時に和室で寝たんだな。折りたたみベッドじゃ…俺は寝れんわ!なるほど…
美裕の部屋はそのベッドと、デスクとチェアーだけだ。クローゼットに衣服や雑貨を収納していた。それらは全部持っていくわけじゃないみたいだ。ここに必要な物もあるわけね!
「ほら…ここも使うし!マサ君にはそこの段ボール達を車で運んで欲しいんだ。お昼休憩には新居に行くから…美裕の部屋に置いてもらえれば」
「うん…わかったぁ!あぁ…その分時間ができたってことだな?どっか行きたいところあるんだな?美裕」
「そーいうこと!カフェ終わったらね。行きましょう」美裕は俺にそう言った。
美裕が俺を誘ったのは、俺の両親と美裕の両親の墓参りだった。結婚を決めた時に俺は1人で両親の墓前に報告には来ていた。美裕も同じで千尋さんと健太郎さんとで墓参りに来て報告していた。今度はパートナーを連れて共の両親に墓参りをした。美裕は…俺の両親の前でこう言った。
「もうすぐ雅人さんと結婚します。樹美裕と申します。ご挨拶が遅れまして申し訳ございません。どうかよろしくお願いします」と頭を下げて手を合わせてくれた。俺も同じように報告をした…
美裕のご両親にも俺は挨拶とさせてもらった。美裕は自分が焼いた焼き菓子を墓前に供えた。俺の両親にも焼き菓子を供えてくれた。墓前を後にして車の中に乗った時に、俺達はまた両親が亡くなる前後の話をし、また美裕と俺は前結婚式の話もした。
美裕はこう言った。
「私が9歳の誕生日を迎えてね、すぐにうちの両親は海外で鉄道事故に巻き込まれて死んだの。うろ覚えの記憶だけど、お父さんとお母さんは新婚旅行に行ってなくて、千尋さんが就職してお給料やボーナスを貯めてね!新婚旅行に行っておいで!って送り出したんだ。お父さん達が死んだときに、千尋さんは自分のせいだ!って泣いたの…でもそれは違うよね?」
「違う!それは絶対違う!お父さんとお母さん喜んで行ったんだろう?千尋さんが一生懸命貯めた貯金だぜ。お父さんとお母さんだって怒ってないさ。それを言うなら…俺だってさ!海外公務行く寸前に親父と言い合いになったんだ。親父は俺に大学までエスカレーター式の附属高校を受験しろって!でもその当時の俺は、あぁ…俺言ってなかったね。こっちに来たのは中学受験前だったんだ!俺は東灘の家に残ってでも、その当時に行きたかったバスケの強い高校に行きたかったんだ。玄関で親父が制帽を被りながら、親父も俺の強硬な態度にムカついてたんだな。普段は喜怒哀楽をあまり表わさなかった親父がさ、玄関のドアをバァン!てしめて聞こえた声が「勝手にしろ!」だった。あちゃ…公務前に怒らせちゃったぞ!って俺はその時反省したんだ。それから俺は例のごとく…学校長の家に親父が帰ってくるまで預けられてね。学校長にも言ったんだよ!俺はバスケの強い高校に行きたいんだ!でも親父は付属高校に行けって!」
「学校長はどう言ったの?その当時の雅人君に」
「うん。たぶん、俺が思うには殉職のある仕事だから、もし自分に何かあったら附属高校なら大学まで卒業できるからじゃないかな?君の親父をかばうけじゃないけど、親はさいつも子供の事考えてるんだよって」
「そうだよね…うちも事故で2人とも死んじゃった時に9歳の私でもどーなるんだろう?って心配したわ。ま、両親は私達を想って遺してくれたものがあったからね。今があると思ってるわ」
「だよな。親父が死んでから、俺は結局学校長に説得されてさ、親父が言ってた附属高校に入学して大学まで卒業したんだ。親父…薄給のくせに結構貯めてたんだよな。ま、その他の金も俺のところに入ってきたけどさ。大学卒業するまで学校長が後見人してくれて、卒業した時に君の将来に使いなさいって、通帳と印鑑もらったよ」
作品名:遅くない、スタートライン第2部 第5話 8//27更新 作家名:楓 美風